EVは売れていないのか

しかし、主要市場の販売動向をみると、一概に“成長鈍化”とは言い切れないこともわかる。主要市場でのEVの販売動向をみると、中国では、2024年10月の自動車販売台数(含む輸出)が、305.3万台(前年比+7.0%)。そのうち、EVは143万台(同+49.6%)で、うちBEVは84.2万台(同+30.3%)、PHEVは58.7万台(同+89.4%)。EVは2024年5月以来、5か月ぶりの前年比プラスとなっている。中国政府は、EV購入時の補助金政策を2022年末で一旦終了していたが、2024年4月、新たに「以旧換新」として、消費者が古い車を廃車にしてEVに買い替える場合に補助金を支給する政策を打ち出し、7月には補助金額を当初の2倍に引き上げているが、その効果が出てきているようだ。また、10月の自動車販売に占めるEVの販売シェアは46.8%と、既往最高を記録。2027年にEV販売シェアを45%とする国家目標を単月ながら達成したことになる(2024年1月~10月では39.6%)。中国市場では、EVが年間1,000万台を超えるペースで販売され、シェアも着実に上昇している。補助金政策が効いていることは確実ではあるが、技術的なノウハウ含めて、中国がEV強国の地位を固めつつあることは間違いないようだ。

(※BEVはバッテリーのみを動力とする電気自動車、PHEVはプラグインハイブリッド車。通常、BEVとPHEVを合わせてEVとしている)

もう一つの主要EV市場である、EUの販売動向を見てみると、2024年9月の乗用車販売台数は80.9万台(前年比▲6.1%)。そのうちEVは19.5万台(同▲0.1%)で、うちBEVは14万台(同+12.5%)、PHEVは5.5万台(同▲22.3%)である。EVは、域内最大市場であるドイツでの販売不振が響き、2024年5月から5か月連続の前年割れだ。また、9月の自動車販売に占めるEVの販売シェアは24.0%となっている。

2024年1月~9月の累計では、乗用車が798.8万台、うちBEV104.8万台、PHEV55万台で、合わせて159.8万台で、EVの販売シェアは20.0%となり、2023年通年の22.3%から若干の低下となっている。EVの販売シェアは、2020年の10.5%から2021年の18.0%、2022年の21.6%と順調に拡大してきたが、ここにきて20%強で足踏みが続いているのは事実だ。

ただ、EUは、国ごとの普及率に大きな差があることには注意が必要だ。2024年1月~9月の累計で、EU全体の乗用車販売台数に占めるEVシェア上位5か国は、スェーデンの56.9%、以下、デンマークの52.3%、フィンランドの48.3%、オランダの46.3%、ベルギーの43.0%(ノルウェーはEU非加盟国)。逆に、最もシェアが小さいのはクロアチア、スロバキアの4.8%となっている。乗用車販売台数上位5か国のEVシェアをみても、ドイツが19.3%、フランスが25.0%、イタリアが7.3%、スペインが10.8%、ポーランドが5.7%、と国により格差が大きい。ちなみに、欧州全域を見渡すとノルウェーは驚異の91.0%、英国は26.1%だ。

米国市場は、EV後進国と言われながらも、メーカーによる魅力的な商品投入や、バイデン政権の“グリーン・ニューディール政策”の下で、補助金が拡大したこともあり、販売シェアを徐々に拡大させつつあるようだ。報道等によれば、2021年には3%程度だったものの、2023年は8%程度、2024年は1月から9月までの累計で10%程度のシェアを占めているようだ。何かとネガティブなニュースフローが目立つので、販売も足踏みしているのかと思いきや、着実にシェアを拡大させていることには注目したい。

“EV市場の成長鈍化”と言われながらも、市場シェアの観点からみれば、欧州では足踏みが見られるものの、世界最大の自動車販売市場である中国では着実に成長を続けているし、世界第2位の市場である米国市場でも、二桁のシェアを獲得するまで成長してきていることは認識しておく必要があるだろう。

自動車の進化の方向性は変わらない

トランプ政権の誕生で米国の気候変動対策が大きく変わる可能性はあるものの、内燃機関車からEVへのシフトは、脱炭素社会実現に向けた重要なピースの一つであることには変わらない。また、成長足踏みの要因であるバッテリー性能も、研究開発が進み、性能向上は日進月歩だ。加えて、EVは、これから開発競争が激しくなるSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)とほぼ同義と言っていい。そこでもAI、半導体が鍵を握ることになるが、いずれにせよ、2010年代以降、急速に進んできた自動車の進化の方向性は変わらないだろう。トランプ氏も、大統領選挙期間中はIRAによるEV向け補助金の削減を主張していたが、EV支援が“Make America Great Again”にプラスであれば、EV拡大の方向に政策を変えてくる可能性も考えられる。

日本は、今のところ、EVの販売では存在感が小さい。上記、IEAの「EV Outlook 2024」では各国の現状についての言及があるが、“日本”についての言及はない。まだまだ、日本では、EVに“馴染みがない”ことから、世界の現状にやや反応が薄い雰囲気も感じるが、世界の自動車市場でのEV化は着々と進んでいる。自動車は日本経済を支える屋台骨の一つ。市場の成長スピードが減速する足元の状況は、日本にとって、巻返しのチャンスだ。トランプ政権から何が出てくるのか読めないが、世界の動きをみていると、自動車市場は官民が呼吸を合わせ、協力していくことが必要だということが分かる。EV市場での巻き返しに期待したい。日本もやれるはずだ。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 研究理事 佐久間啓)