EV義務化を中止し、高コストで負担の大きい(環境対策)規制を削減するとした、共和党大統領候補トランプ氏が、大統領選挙で圧勝、2025年1月大統領に就任する。足下では、成長鈍化を示すニュースフローの多いEV市場であるが、世界最大の自動車市場である中国、第2位のアメリカでも順調に、その市場シェアを拡大させている。 トランプ政権の誕生で米国の気候変動対策が大きく変わる可能性はあるものの、世界的な内燃機関車からEVへのシフトは、脱炭素社会実現に向けた重要なピースの一つであることは変わらない。加えて、EVは、これから開発競争が激しくなるSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)とほぼ同義と言っていい。EV支援が“Make America Great Again(MAGA)”に繋がるのであれば、EV拡大の方向に政策を変えてくる可能性も考えられる。現状、日本はEV市場での存在感が小さいが、成長スピードが鈍化した今こそ巻返しのチャンス。官民呼吸を合わせて対応していくことが重要だ。

トランプ氏は「EV義務化を終わらせる」としながら、「EVには賛成だ」とも発言

2024年7月、共和党の大統領候補に指名されたトランプ氏は、その指名受諾演説の中で、バイデン政権が掲げる2030年までに自動車販売の半数をEVにするという目標を念頭に、就任初日にEV義務化を終わらせるとした。また、選挙期間中にはバイデン政権の“グリーン・ニューディール政策”を攻撃し、IRA(インフレ抑制法)に基づく、EV向け最大7,500ドルの補助金支給についても見直すとしていた。一方で、「EVには賛成だ」、「EVは好きだ」とも発言しており、なかなか真意は読めない。

そのトランプ氏が大統領選で圧勝し、2025年1月、大統領に就任する。前任者の看板政策を否定するのはいつものスタイルであり、すべてが選挙期間中の発言通りにはならないとは言え、議会は上下両院とも共和党が過半数を占める。バイデン政権が進めた“グリーン・ニューディール政策”、EVシフトは大きく変化していく可能性がある。具体的な政策はこれからであるが、もとより、“アメリカファースト”な仕様であるIRAが、トランプ政権下で、さらに、その度合いが強まることは間違いないだろう。

EV市場は成長の限界が見えたのか

今後、大きな環境変化が想定され、注目されるEV市場であるが、足下では、“成長鈍化”といった報道も目立つ。EVシフトを進めるために、中国、欧州で競うように導入された購入インセンティブ策が、多くの国で2023年までに打ち切られたり、縮小されたことから、2024年に入り、補助金による前倒し購入の反動もあり、購入を手控える動きがみられた。EV普及が、一足先に進んだ国で、販売が少し足踏み状態にあるということのようだ。メーカーの値引き、在庫調整の動き、製造拠点の整理、設備投資の先送りといったニュースフローを目にする機会も増えている。

IEA(国際エネルギー機関)の「EV Outlook 2024」によれば、EV販売(含むプラグインハイブリッド車)は、2020年の299万台から2023年には1,380万台、年平均66.6%の成長を実現。一方、足元の見通しでは、年平均成長率が2023年~2025年は22.9%、2025年~2030年は14.4%、次の5年は6.8%の伸びに徐々に減速していくとしている。EV販売シェアは、2023年には18%に達し、IEAは「主要市場でアーリーアダプターから大衆市場へと普及がシフトし、新たな局面を迎えている」としている。

EVは着実に普及が進んでいるものの、2020年以降の驚異的な成長“速度”が落ちているのは事実のようだ。アーリーアダプターから大衆市場へとシフトすれば成長は一段と加速するものだが、エンジン車との価格差が依然として大きいことに加え、充電スポットの整備が遅れていることや、バッテリーの進化が、“ムーアの法則”並みには進まないことが、成長速度の鈍化につながっているようだ。