上司からキャリアップや成長への期待を感じている女性は組織への貢献意欲が強い

次に、同じく共同研究の成果から、50代女性社員が「上司から期待されていると感じること」と、今後の働き方の姿勢として「会社の業績アップに貢献したい」と回答した人のクロス分析をした結果を見ると、50代女性社員全体では、「会社の業績アップに貢献したい」いう意欲を持っている人は9.6%だったのに対し、上司から「管理職への就任」や「総合職など、基幹的な職種への転換」などの“キャリアアップ”、「仕事のスキルを上げること」、「仕事のパフォーマンスを上げること」などの“成長”を期待されていると感じている女性は、業績アップへの貢献意欲が有意に高かった。逆に、「期待されていない」と感じている女性や、何を期待されているかが「分からない」と回答した女性は、業績アップへの貢献意欲が、全体よりも有意に低かった。

ただし、上司からのキャリアアップや成長への期待が高いから、女性社員本人の貢献意欲が高まるという可能性もあれば、もともと女性社員本人の貢献意欲が高いから、上司から、キャリアアップや成長を期待されている、という可能性も考えられる。そこで、先行研究のレビューより、この点を考察する。

上司からの期待はキャリア意識を向上させる可能性がある

共同研究の成果より、上司からの期待を感じている女性社員の方が、組織への貢献意欲が高いことが分かったが、「上司からの期待が高いこと」と「女性社員の貢献意欲が高いこと」は、どちらが要因で、どちらが結果か分からない。そこで、女性社員の仕事への意欲に与える要因を分析した先行研究を参照する。

公益財団法人「21世紀職業財団」が2017年、30歳~54歳の一般職または事務職の女性社員約2,200人を対象に行ったインターネット調査によると、本人がもともと持っているキャリア意識の違いをコントロールした上で、仕事への向上意欲に関する回帰分析を行った結果、女性社員が上司から「総合的な業務をすることを期待される場合」、「チームを率いることを期待される場合」、「少し難しい仕事を期待される場合」、「期待があいまいな場合」は、上司から期待されたことがない場合に比べて、組織への貢献意欲が高くなる確率が高いことが分かった。

つまり、上司が女性社員に対して、より高度な仕事をすることを期待し、本人に伝えた方が、本人の組織への貢献意欲が高まる可能性があると言える。

企業側が“中高年社員の役割”を明確に

はじめに述べたように、正社員として企業・団体で勤め続けてきた50代女性社員はじわりと増加している。それにも関わらず、彼女たちが職場で明確な役割を期待されているとは必ずしも言えない。その背景には、これまでの彼女たちの職務範囲が浅いため、今から異動させて、新しい仕事を覚えさせたり、研修を受講させて重要なポジションに配置させたりすることの負荷が高いからだという理由も考えられる。しかし、本稿でみてきたように、まずは上司がキャリアアップや成長を期待し、それを本人に伝えることで、本人のキャリア意識が高まる可能性がある。逆に、社員一人ひとりに成長と成果を期待しなければ、企業は「生産性向上」という目標をどうやって実現できるのだろうか。

国の高齢者雇用政策もあって、多くの50代女性社員が、定年や継続雇用の上限など、高齢期まで働き続けると予想される。「もうすぐ定年だから」と言って、企業が役割を付与しないまま漫然と雇用し続け、女性社員自身も「現状維持」の姿勢で働き続けていても、国の政策の影響で、定年が延長されるかもしれない。それでは、高齢者雇用が進めば進むほど、企業の生産性が低下することになる。50代になっても、60代になっても、管理職であってもなくても、それぞれの社員が、組織で働く最後の日まで、モチベーションを維持して力を発揮し、組織に貢献してもらえるためには、まずは企業側が中高年社員の役割を明確にし、上司から本人に伝えることが最初の一歩となるのではないだろうか。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子)