■ 初めて知った「梅雨だから足の裏が滑る」感覚

(自宅の玄関)
ディレクター「こんにちは」
(床に腰を下ろし、座った状態で現れる大輝くん)
大輝くん「こんにちは。よろしくお願いします」


ぼくは今、お尻で歩き、一人で座れるようになりました。
(座椅子に独りで腰を掛ける大輝くん)
大輝くん「はい、こんな感じです」

そして、さらに…。
(諫早特別支援学校の一室。担任の先生が自立活動の補助器具を取り出す)


大輝くん「ブレーキをお願いします」
先生「ありがとうございます。いつも大輝さんから注意してもらって、声をかけてもらえるので」
大輝くん「ブレーキしてても少し動くので、しっかりしとかないと」


(先生にサポートしてもらい、歩行用の補助器具に跨る大輝くん)
先生「せーの。よいしょ。いいですか?」
大輝くん「はい。はい立ちました。OKです」
(上半身を固定するベルトを先生が締める)
先生「じゃあまわしますよ」
(自立活動の補助器具の車輪のロックを先生が外す)
先生「OK!」
大輝くん「よいしょ」


先生「はーい、では、今日も両足をしっかりついていきましょう」
大輝くん「滑りますね…梅雨だから」
先生「そうだね、湿気がね」
大輝くん「この間までにはなかった感覚です」
先生「踏みしめて。そこも感じながら」


足の裏が、床につく感覚を知ったのは、歩行訓練を初めてからです。


(補助器具の力を借りながら、学校の長い廊下をゆっくりと独りで歩く大輝くん)
先生「右のかかとがね、なかなかね」
先生「でも左はよくつくようになったし安定感も出てきてますよ」


(なだらかなスロープに差し掛かる)
先生「最初はここも押してたんですけどね。何回目やったかな。自分でね…」
大輝くん「2回目か、3回目」


のぼりは手すりを持って…。でもくだりはまだ不安…。


担任 藤本 由紀子 先生:
「まさかね、歩けるっていうところがあったので…
最初に立てた目標が『30分立てるようになって50メートル歩きたいね』って言ってたのね。だけどそれ1回目でクリアーして。
あれ?もっといけるんじゃないっていうのがあって」

ディレクター「自分の足で歩いた気持ちって?」
大輝くん「まだちょっと不思議ですね。えっとまあ、自分で歩いたことがないから…。今まで、”かかともスベスベだ”って言ってきたんですけど(笑)」
ディレクター「どうでした?(足が)着いたときの最初の気持ち?」
大輝くん「そうですね、嬉しかったったですね。急に歩けるようになった形だったので、非常に嬉しさはありましたね」
ディレクター「目標はどこにあるんですか?」
大輝くん「目標は長く…長い距離を歩けることと、この歩行器、意外と立ちやすいので、長く座れるようになったらいいのかなと思いますね」


1歩、1歩。確実に、大切に。
16歳の夏、ぼくは自分の足で歩き始めました…。