「~させていただく」が広がる背景
一つは、「説明させていただく」のように名詞に付くとともに、どの動詞にでも学校文法で言う未然形にくっつけて使えるという便利さです。例えば、謙譲表現の「お持ちします」などの「お~する」「お~いたす」といった言い方では、「お~」の「~」の部分に来る動詞にある程度制限があって、どんな動詞にでも使えるわけではありません。その点、「~させていただく」は動詞を選ばないので便利だというわけです。また、どんな動詞に対しても「~させていただきます」と言うことで、場面を問わずに「相手に失礼のないよう私は配慮しています」ということを示せる都合のよさもその原因の一つであるようです。

そもそも「~させていただきます」型謙譲表現は、商人の町大阪を中心とした関西方言で多用されていたものが、今説明したような便利さ、都合のよさを背景に、共通語の世界にも勢力を広げたとも言われています。
「あなたから利益を得る」という「受益意識」でも、上下関係を示すものでもない。「あなたの存在を認知し、言語化したい」「私の行為を、あなたと関係のあることとして丁寧に表現したい・謙遜の気持ちを表現したい」という「あなた起源」ではなく「わたし起源」の配慮・気遣いが、使用拡大中の、「~させていただく」の背景にあるのではないかと思います
本来の使い方から見て気になる「~させていただく」型表現の使用は、その使い勝手のよさから日本語の謙譲表現形式として今後ますます使用を拡大していくものと思われます。
加藤和夫:福井県生まれの言語学者。金沢大学名誉教授。北陸の方言について長年研究。MROラジオで、方言や日本語に関する様々な話題を発信している。