「一匹じゃさみしくてかわいそう」翼音さんが残した、商品への提案

豪雨が発生する1か月前のことだった。いつも通り誠志さんが蒔絵の作業をしていると、翼音さんが話しかけてきた。誠志さんが描いていたのは白い一匹のフクロウ。

「一匹じゃさみしくてかわいそうだから、二匹いた方がいい。色もカラフルな明るい色がいい」

翼音さんが商品のデザインについて話すのは、これが初めてだったという。

今月、野々市市の自宅で一人、孫の遺影を前に手を合わせ、語りかける誠志さんの姿があった。

「カメラマンと記者さんやって、来とるよ翼音。ねえ、どうする?」

「こうやっていつも話してます。返事は返って来ないんですけどね。本当にさみしいですけど。とにかくね、翼音。天国で元気にして、じいちゃん来るのを待っててね」

豪雨のあと、誠志さんがずっと作り続けている商品がある。翼音さんからアドバイスを受けたフクロウのカップだ。

誠志さんが書き続ける「フクロウのカップ」

フクロウの絵は工程が多い。描いては乾かして、また描いては乾かしてを繰り返す。地震でこれまでの商品を失い、一つでも多くの品を揃えなければならない中、手間のかかるフクロウの絵を描き続ける理由は。

「やっぱりこれは唯一、翼音が私に残してくれたものだと思っていますから。これを私は描き続けていかないといけないかなと思うんですよ」

カップの底には翼がデザインされた「Hanon」の文字。この商品を手に取った人に伝えたいことがある。

底に描かれた「Hanon」の文字

「これは、翼音の生きた証だと思っています。だからもう、翼音のようなことにならないように、このカップを使って災害を思い出して、身を守る備えをしてほしい。そうすれば、翼音の死も無駄にならなかったかなと思いますから」