高知県須崎市と金融機関などが連携して始まった地域再生の取り組み「海のまちプロジェクト」。JR須崎駅周辺のリノベーションに続く、新たな事業がいま進められています。まちにある財産に光を当て、活気を取り戻そうというこの取り組みによって、須崎市はいま、変わりつつあります。
■“まち”に光あて、活気を『海のまちプロジェクト』
太平洋に面し、天然の良港がある須崎市は、古くは流通の拠点として栄えてきました。漁業も盛んで獲れる魚の種類も豊富なことで知られています。海からの恩恵を受け発展してきた須崎市はまさに”海のまち”です。

1923年に須崎市で創業した高知信用金庫は、市と連携し、数年がかりでまち全体をリノベーションするという一大プロジェクト「須崎市海のまちプロジェクト」を2021年に発表しました。プロジェクトでは、市街地を5つのエリアに分け、それぞれの地区の個性を際立たせます。第一弾として動き出したのは須崎駅と周辺商店街のリノベーション。須崎駅は土讃線発祥の地であることから、鉄道発祥の地=イギリスを思わせる英国レトロ風の”海のまち駅”として生まれ変わりました。

今回のプロジェクト第二弾では、新鮮な魚をはじめとする須崎の食を堪能できる新スポット「須崎大漁堂」が誕生します。この日は須崎市、信用金庫の職員、建築会社やデザイン会社のほか、呼びかけに応じた食のプロたちが集まり意見の交換や課題の洗い出しなど、活発な議論を交わしていました。

▼メニュー開発担当:山本徹さん
「僕は日本中の漁港をまわってるんだけども、一番おどろいたのはセリが朝9時半からなんですよ。新鮮な魚があがったすぐの魚が、そのまんまお昼のランチで出てくるんですよ。だから極端に言ったら日本で一番お刺身がおいしく食べられる町だなって思ってんのね。すごいポテンシャルだと思います。」
▼映像担当:横井秀光さん
「映像の依頼をいただきまして、めちゃくちゃ楽しいですね。めっちゃくちゃ楽しいです。こういう行政の方も含めて一緒に企画するんで。普通だったらお伺い立てて、プレゼンして答えが返ってくるのが1か月後とかでってやり方ですけど、みんなでホワイトボード見ながら決めていくんでやりがいがめちゃくちゃありますね。」
▼武地棟梁
「今まで試行錯誤してきたね。模型作る前に斗(ます)はこんな形で作らないかんとかあちこちお寺さんも見に行って…」
今回のプロジェクトに参加している高知市の式地建築です。代表の式地さんは、大工歴40年以上の木造建築のプロフェッショナル。住宅以外にも高知駅のとさてらすや龍馬のうまれたまち記念館の建設にも関わってきました。大漁堂は、既存の建物をリノベーションし、100以上の木造パーツを組み合わせて神社の社殿を思わせる外観を組み上げる予定です。

Qどんなところを学んだ?
「一番は、木の組み方。形のデザイン」
Q100以上のパーツを組み合わせて組み上げた時に誤差は出ないのか
「まぁまず出ませんねぇ、職人さんの器用さ」

■舞台は人通り減った商店街…数々のアイデアで生まれ変わる
今回の舞台は須崎市の古市通り。大正時代の建物をそのまま活用したアートの発信地「まちかどギャラリー」がある中央商店街です。昔は年末になると買い物客であふれかえっていたという通りも、平日はご覧のとおり。大漁堂ができるのはもともと金融機関が支店を構えていたビルで、しばらく空き家になっていた場所です。

10月に入ると、白い外壁のビルが生まれ変わっていました。社殿風の外観は街並みに調和しながらも見る人の目をひくインパクトも持ち合わせています。

中に入ると大きな木のオブジェが目に飛び込んできました。大阪を拠点に、植物を使った空間アートを手がける西畠靖和さんの作品です。西畠さんは、枯れて伐採された樹齢300年を超えるクロマツに新たな命を吹き込み、町の再生への思いを重ねました。

▼西畠さん
「和風の代表的なまためでたい木であるし松が一番やろなっていう…ここでずっと生き続けるっていいですよね」

シンボルマークは、魚たちが喜んで船に飛び込んでくる様子を描いた宝船になっています。豊富な種類を誇る須崎の魚こそ、須崎の宝なのです。過疎化、少子高齢化が進む地方で、町を再び活性化させるチャンスはそうそう訪れるものではありません。地元の人たちは大漁堂に大きな期待を寄せています。
▼地元の人
「やっぱりみんなが『なんじゃお』って出てくるようなそういうことにせんとね。人通りが少なくなったら寂れてくるき」
「友達連れて一杯飲みに来れるろうかと思うて見よった。酒やないで、コーヒーで(笑)」

大漁堂に生まれ変わるビルの前で46年にわたり営業を続けるブティックです。
▼ブティックの明神節さん
「さみしいですねぇ、見てください(笑)ゴーストタウンって言いながら『村人はっけーん』とかって」
「最近ガンガンすごい工事したりして音がしてたけど、それが励ましになるっていうか。かえって元気が出てきて活気ができるんじゃないかなってすごい期待感があります。」

正式オープン4日前の12月6日、プレオープンの日を迎えました。知らせたのは店舗近隣のみ。注文から会計まで円滑な接客を目指して、正式なオープンまではスタッフのトレーニング期間でもあります。
オープンからほどなくして楠瀬市長がふらりとやってきました。

▼ディレクター「あれ?お客さん第一号やないです?」
▼店員
「あっ二人目・・」
▼楠瀬市長
「二人目!いつも第一号は外すんですよ」
「居心地がいいですね。まぁなんといってもこのオブジェ、松はねぇ、すごいですねぇ、気軽に町内会の人、市民の人に入ってきてもらっていろいろしゃべったり、時間つぶしてもらったり。連動して市外の人にも楽しんでもらえるようなエリアの一番中心がここという形になればいいなと。」
大漁堂の看板メニューは須崎で獲れたマダイの出汁がきいたマイルドな辛さの白カレーと、四万十ポークと米豚のひき肉を使ったスパイシーな黒カレー。

また、その日に獲れた新鮮な魚を味わえる「須崎のサカナ盛り定食」に四万十ターキーのハムや四万十ポークの厚切りソーセージをはさんだ地元ならではのバーガーもあります。お昼時にはオープンを知った地元客でさっそく賑わいました。



▼メニュー開発担当山本徹さん
「なんかみんなね、意外に『おいしい』って反応してくれるんで喜んでます。本気で作ったカレーとバーガーなんで。ここは基本的には食堂なんですけど、旅の途中とかでゆったりしていただく時間と場所を提供しようということで作ったんで、そういう意味ではほんとに食べ終わってもずーとしゃべってくれているっていうのは逆にうれしいですよね」
■「コーヒー1杯で、1日どうぞ!」憩いの場に
そしてむかえた、グランドオープンの日。


▼訪れた人
「内装とかすごいですね。あの木が特にすごい。こんな綺麗なところで地元のご飯食べられたらいいですね。」
「日曜日に開いたお店が少ないきね。」
「日曜日はほとんど閉まってね。」
「『1日おってもえいですきどうぞ』って言われたんですよ、『コーヒー1杯で1日おってもいい』言うて。」

前のブティックで接客する明神さんは、早くも人の流れの変化を感じていました。お客さんが買い物に合わせてコーヒーや食事を楽しめるようになり、この通りへの滞在時間が増えたのです。
▼ブティックママ 明神節さん
「なんかリフレッシュ。古いだけやった、シャッターが閉まって茶色い錆びたような色やったのが、もうちょっとつやつやと明るくなってくるので。やっぱりね、生まれ変わってほしいですね。いろんなところも一生懸命掃除して綺麗に自分達もしようと思ってます。」

憩いの場でもあり、須崎の魅力の発信基地でもある須崎大漁堂。地元の人々の心に希望の光を灯す船出となりました。しかし、プロジェクトはまだまだこれから。来年には大漁堂の姉妹店にあたる「須崎のサカナ本舗」がオープンする計画です。
