夢は「五輪で金」そして高知をレスリング王国に

櫻井さんの長女つぐみさんは、3歳のときから父が立ち上げた高知レスリングクラブに通っていた。

父の指導を受けるつぐみさん

つぐみさんは、中学時代、全中3連覇するなど、頭角を現していたが、高校生になってスランプに陥り勝てなくなり、練習に対しても前向きではなかった時期があった。そのとき、「そんな練習態度では指導しても意味がない」と櫻井さんは、練習場に何日か敢えて行かなかったという。

【櫻井優史さん】
「練習をやらされているといった姿勢だったので、ちょっと突き放して練習場に行かない日があったんです。すると何日かして当時キャプテンだった清岡幸大郎が『つぐみは変わりました。見に来てください』と言ってきて練習場に行くと、もう
本当に別人のように変わっていました。多分、突き放したことで自分でやらなければいけないんだという自覚が芽生えたんでしょうね。自ら強くなろうという気持ちが伝わってきて、子どもって短期間にこれだけ成長するんだということを私自身が子どもから学びましたね」

時折、父としての顔をのぞかせながら語る櫻井さん。練習場でも、学校の行き帰りも一緒で、常にすぐそばで娘の成長を見守ってきた。まだパリ五輪代表が決まっていないときのインタビューで、つぐみさんへの期待をプレッシャーにならないよう気遣いながら、こんな風に語っていた。

【櫻井優史さん】
「女子は特にパリオリンピックで日本代表になることがとても険しい道のりです。
日本には世界トップクラスの選手が何人もいるので。その強豪を破って代表になることは本当に大変だと思いますが、そこを抜けて世界でしっかりと自分の力を出し切れば、ぐっとオリンピック代表が近づくんじゃないかと思います」

このあと、つぐみさんは絶体絶命の大ピンチに見舞われることもあったが、日本代表の座を勝ち取り、夢の舞台で安定した実力を見せつけ、金メダルを獲得することになる。このときのインタビューで、櫻井さんは自身の夢としてオリンピックについて触れていた。

 【櫻井優史さん】
「これまで子どもたちがインターハイや国体、世界選手権などいろいろな大会で優勝してくれました。とれていないのはやはりオリンピック。それを夢みて今まで頑張ってきたので、1人でも多く代表の切符をつかんでもらいたいし、その先に、金メダル。『パリで金をとる』私もその夢を諦めずに応援していけたらと思っています。そして最終的には、高知を「レスリング王国」に、それを最大の目標にこれからも頑張っていきます」

出身地・香南市で祝福を受けるつぐみさんと櫻井さん

このインタビューから約1年8か月後、櫻井さんが幼い頃から育てた2人の選手が、高知に金メダルを持って帰ってきた。指導者としての長年の夢が叶い、次に見据えるのは「高知をレスリング王国に」。2人の金メダリストが誕生したことで、その最大の目標にも確実に近づいている。