高知から「世界」に羽ばたく選手を

櫻井さんの大きな転機となった2002年の高知国体。決勝戦で教え子を破って優勝した選手は、ジュニアのときから全国で活躍している選手だった。櫻井さんは、この一戦でジュニア育成の重要性を痛感したという。

その指導者としての挫折を機に「高知から日本一の選手を」と人生全てをかける覚悟で2004年に立ち上げたのが「高知レスリングクラブ」だった。

櫻井さんの長女・つぐみさんや次女・はなのさんら、近所の子どもたちを集めてのスタート。最初は人集めにも苦労したそうだが、その後このクラブから、日本代表選手が8人も輩出される。清岡幸大郎さんも、高知レスリングクラブの一期生だ。

世界で戦える選手を育てた櫻井さんの指導の極意とは…

高知レスリングクラブで指導する櫻井さんと当時小学生のつぐみさん(右)

【櫻井優史さん】 
「ジュニアの指導経験がなかったので、最初は手探りの状態で、私の地元・香川のジュニアチームで指導法を学んだり。技術面については、県内外の優れた指導者の方にお願いをして、日本中どこであっても選手を連れて行ったりしました。そういった練習環境を提供することに全力を尽くそうと」

櫻井さん自身、高校時代は国体優勝、大学時代は全日本学生選手権3位と実績を残している選手だったにも関わらず、ある意味プライドを捨てて、ひたすら技術が向上する環境を求めていった結果、選手はどんどん力をつけていった。

【櫻井優史さん】
「私は地方の高知からでも、日本一の選手を出せる、世界で優勝できると思って指導しています。以前、大会前に選手に目標を書かせたとき、後にU-20 世界選手権で優勝した選手が、『世界3位』と書いたんです。そのときに私は『お前は最初から負けに行くのか?』と『私ならそんなのは嫌だ』と言ったら、その選手は『優勝』と目標を書き換えました。どんな大会でもしっかり準備をして一番を目指す、その覚悟を持ってマットに上がる。私は子どもたちの可能性を信じていますし、それが、私が大切にしていることでもあります」

レスリング55キロ級で世界選手権初制覇を果たした櫻井つぐみ選手(2021年・ノルウェー)

長女つぐみさんとの間には、こんな出来事もあった。父と娘である前に、指導者と選手、櫻井さんはどう向き合ってきたのか。