アジア大会代表の池田は前回最長区間で区間賞

アジア大会代表だった池田耀平(25、Kao)と定方俊樹(31、三菱重工)も出場する。
池田は前回最長区間の4区区間賞を取った選手。その2か月後に2時間06分53秒の初マラソン日本歴代2位で走り、アジア大会代表入りを決めた。ニューイヤー駅伝をマラソンにつなげた成功例といえた。

アジア大会後はMGCには出場しないで、日本選手権10000mを走った。28分09秒76の13位は、秋にマラソンを走った選手では最高成績である。高岡寿成監督は「スピードにも重点的に取り組んできた。将来2時間4分台、3分台を狙うために、10000mのスピードは必要。ニューイヤー駅伝にも対応できる」と池田の日本選手権出場理由を話した。

ニューイヤー駅伝は3区の可能性もあるが、最長区間となる2区出場が有力だ。
「前回の4区は1人で追い上げる展開でしたが、2区となるとタイム差が開かずにスタートする可能性が高くなります。集団で走ることと、ばらけた状態で走ることの両方を想定させています。集団になったら(ペースと余力などから判断して)引っ張る展開も、付く展開もあり得ます」

実際にどんな展開になるかは、1区からタスキをもらう位置や、周りの選手の力によっても左右される。難しい判断になるかもしれないが、それに対応することでさらに上のレベルのマラソンができる。

定方は集団走も単独走もでき、1区の経験も、アンカーでは競り合った経験もある。駅伝に関しては「どこでも行ける選手」(黒木監督)だ。アジア大会と九州実業団駅伝を短い間隔で走り、疲れが出た時期もあった。だが10000mの記録会を回避してじっくり練習を積み、ニューイヤー駅伝に向けては状態が上がってきた。

以前は1km2分58秒(2時間05分11秒のペース)に挑戦する気持ちで走っていたが、今は定方も「それがスタンダード」(黒木監督)の感覚になっている。駅伝でスピード感を養い、ファイナルチャレンジで2分58秒ペースをストレスなく走るつもりだ。

三菱重工勢では井上大仁(30)も五輪3人目の代表候補に挙げられる。ニューイヤー駅伝は2区が有力視されているが、「いつものように上がってきている」と黒木監督。

マラソンに向けても「いつもと同じ」がキーワードになるという。2時間6分台を2度マークし、18年アジア大会では金メダルも取った。自身のレベルを世界に近づけるための試行錯誤が続いている。

「特別なことをやるのでなく。いつもと同じことを繰り返す中でいかに自信を持てるか」。駅伝の最長区間でも、19、20年と区間賞を取ったが、その後は区間2位、3位、9位と区間賞に届いていない。今のコンセプトでマラソン練習を行いながら、駅伝でもう一度区間賞が取れれば、マラソンの2時間5分台も十分可能になる。

東京五輪補欠の大塚は自然体でファイナルチャレンジへ

三菱重工勢以外の九州勢では、黒崎播磨の細谷恭平(28)、九電工の大塚祥平(29)らが代表3人目の候補と言われている。

細谷はMGCの28km手前で、後ろの選手と接触して激しく転倒。レースを続行することができなかった。1か月半の間隔で福岡国際マラソンに出場し日本人トップの4位。2時間07分23秒の自己セカンド記録と健闘したが、一番の目標だったファイナルチャレンジ設定記録には届かなかった。ペースメーカーが外れた30km以降、外国勢が前に出ず、細谷自身が先頭集団を引っ張る局面が長かった。それがなければ…と思わせるレース内容だったが、細谷は「記録は、気象条件やレース展開に左右されるもの」と、すぐに前を向いた。

21年には福岡国際で日本人トップになり、ニューイヤー駅伝4区でも区間賞をとった。今回もそのときの経験が役に立つ。

細谷が2区を区間上位で走れば、3区の田村友佑(25)で先頭争いに加わる展開が期待できる。4区のシトニック・キプロノ(22)は、27分09秒80の日本新が誕生した日本選手権10000mで、オープン参加だったが2位相当の位置で27分12秒27でフィニッシュした。

細谷の頑張り次第で、4区でトップに立つシナリオが現実になる。
大塚は19年のMGCで4位になり、21年東京五輪は補欠だった。1年半近くも補欠という立場を全うし、精神的にも成長した。21年2時間7分台、22年2時間8分台という記録だけでなく、順位的にも高いレベルで安定した。

そして今年2月の大阪で2時間6分台をマーク。惜しくも日本人3位で国際大会代表入りを逃してしまった。今年10月のMGCに懸ける思いは強かったが、「4年前に比べ練習段階で良い感覚を得られなかった。1か月を切って足の状態が気になった」という状態で臨み、8位に終わった。

ファイナルチャレンジはもちろん狙っている。
「今のところ大阪を考えています。大阪のコースでも2時間5分台は出せると思いますが、あまり設定記録を意識せず、自分の力を100%出し切ることに集中します。その走りが少しでも良い順位、良いタイムになる。結果的に優勝や、2時間05分50秒になれば最高ですね」

大塚は上りや向かい風に強く、ニューイヤー駅伝では後半区間で活躍が期待できる。
だが一番の武器はメンタル面だろう。補欠期間が長かったことがさぞ大変だったでしょう、というニュアンスで問われても、本人にそこまで深刻だった実感がなく、答えに困ってしまうこともあるという。泰然自若の姿勢が安定した走りや、練習に不安があってもレースで力を出し切ることにつながっている。

そんな選手がニューイヤー駅伝をどう走り、ファイナルチャレンジにつなげるか。五輪がかかったプロセスを、自然体で乗りきれば最高の結果が待っている。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)