■自宅が空爆された夫婦

損壊の激しかった一軒家の写真を撮影していたら、そこの住人が家に招き入れてくれました。水道局で働く男性と、幼稚園で働いている女性のご夫婦。攻撃を受けてすぐ避難し、落ち着いてから帰宅したところ、家のドアや屋根、窓が破壊されていました。夫婦はその片付けに追われています。

損壊した家の様子を説明してくれるターニャさん


夫婦には、ペットの犬のレックス(2歳)がいました。避難の間、レックスは隣人によって世話をされていたと言います。しかしレックスは爆撃により、亡くなってしまいます。ご夫婦が帰宅された時には、レックスは庭で亡骸となり、横たわっていました。

■部屋の片付けをしていた親子

ある、大破していたマンションを訪れていた時のことです。そこでは、部屋の片付けをしている親子がいました。

親子が片付けをしていた建物は、窓もドアも階段も壊されていた


彼らもまた、イルピンで戦闘が始まった頃に避難し、情勢が落ち着いてから戻ってきました。自宅の壁や窓は大破し、ボロボロです。せめて何か使えそうなものを持っていこうと整理をしていたのですが、パソコンなど主要な物品は既に盗まれていました。「帰宅したら主だったものが盗難されていた」という話は、実にあちこちで聞きました。

片付けをしていたイヴァンさんは、ロシアに妹家族が暮らしています。しかし妹家族に、イルピンやブチャで起きていることを説明しても、「誤った認識だ」と逆に非難してきます。戦争が破壊しているものは、家屋や物品だけではありません。さまざまな人間関係をも、壊してしまっています。

イヴァンさんが暮らしていたマンションの廊下は破壊されていた

■第二次世界大戦を経験したアレクサンドラさん

イルピンの街を歩いている時に話を聞いた、アレクサンドラさん。彼女は第二次世界大戦後から、ずっとイルピンの町で暮らしています。彼女の自宅は、ロシア兵の拠点として利用されました。屋上にスナイパーが陣取り、近所の人々を無差別に撃ち殺していたのを目撃したと言います。

破壊されたイルピンの街並み


犠牲者の中には、親しかった隣人らも含まれています。自分が見た惨劇を語る時、アレクサンドラさんの声は震えていました。その上で、取材に来た私たちに対し、感謝の言葉を述べ続けていました。

■夫を殺害されたラドミラさん

ラドミラさんの夫、セルゲイさんは、地元に残り、人々を避難させるために車を運転したり、住民に物資を配ったりしていました。セルゲイさんはとても優しく、誠実な人だったそうです。彼にはトラウマがあり、軍に入ることはしませんでしたが。それでも人々の役に立ちたいと思い、住民をサポートする活動に専念していたのです。

夫、セルゲイさんの人柄についても説明してくれたラドミラさん


しかし、彼の活動がロシア側に伝わり、支援活動の拠点となっていたオフィスが爆破されて殺害されてしまったといいます。一緒にいたボランティアも亡くなったそうです。