重大な結果でも責任能力が完全でなければ刑は減軽される
――量刑について教えていただきたいんですが、今回の場合、36人の方が亡くなっていますが、重大な結果でも責任能力が完全でなければ死刑にならないことは果たしてあるのか。刑法39条には「心神喪失者の行為は罰しない」そして「心神耗弱者の行為は刑を減軽する」というこの2つは任意ではなくて義務。刑が減軽されれば最大で無期懲役ということになる。これは裁判官・裁判所が考えることじゃなくて義務的に判断しなければならないということ?
川崎拓也弁護士:そういうことです。心神喪失、責任能力がないと判断した以上は、いかに被害が仮に大きかったとしても、そこで無罪を出さないというわけにはいかない。これはもう法律が定めていること。同じく、限定責任能力であれば、それは必ず刑を減軽しますよと。法律の中には刑を減軽することも“できる”っていう条文のものもあるんですけども、この場合は“する”となっていますので、減刑を必ずしないといけない。さらに減刑の仕方も法律で決まっていて、死刑の場合は無期懲役あるいは長期拘束する刑ということになるので、これはもう心神耗弱という判断をした以上、必ず死刑にはならないというのは、これはもう法律で決まっていることということになります。
川崎拓也弁護士:もちろん、いろんな意見を持つ方が弁護士にも裁判官にもいらっしゃいます。どうして刑法39条が定められているのか。世界的に見てもほとんどの国でこういう条文があるんですね。ではなんでかっていうことを考えたときに、やはり刑法犯罪、刑罰っていうものは、悪いことを悪いと認識して、それにもかかわらずやったんだ、っていうことを処罰する、これが基本的な考え方になるわけですね。そうすると、悪いことを悪いと認識できない人、あるいは悪いとわかっていても自分の体がコントロールできずにそれを乗り越えてしまった方、その方に処罰をする根拠っていうのはあるんだろうか、というのが基本的な法律の考え方になってくる。もちろんそれを違う法律にするっていう態度決定もできることはできるんですけども、基本は「悪いことを悪いとわかっている、善悪の判断がつく」、そして自分の行動を病気でそれが行動をコントロールできないということではなくて、きちんとコントロールできるということが前提で、処罰が与えられるということになるので、なかなかこの39条については法律家としては、基本的にそれは犯罪、刑罰論からするとそういうことになるよね、という理解が多いのかなというふうに思います。
川崎拓也弁護士:責任能力の判断で無罪になった、あるいは心神耗弱になって刑が短くなった方の場合は、医療観察法という別の法律で強制的に入院、そして治療を受けるということになります。ただ他方で、この世の中にはいろんな疾患を抱えている方がいらっしゃって、その方々に適切な治療が行き渡って、そしてこういうことにならないのが一番いいことではあるので、そこを我々ももちろん考えていかないといけないですし、この判断が仮に出たとしても、それで明日から街を歩くことになるかというとそれはそうではなくて、適切な治療を与えるということが法のスタンス。