さらに水野さんを戸惑わせたのは、大学の友人たちの“突然の変化”です。

水野さん
「友達が、今までしてなかったような女性用のスーツに身を包んで、ストッキングを履いている姿を目にした瞬間に、もうパニックになっちゃって」

元々はさまざまなジェンダー表現をしていたはずの仲間たちが「男らしさ」「女らしさ」に染まっていくなかで、ひとり取り残されていく感覚になったといいます。

「男性女性の二元論の世界にみんなが吸い込まれていく中で、自分だけがいつまでもここにいて、死ぬまでこうなのかなと」

面接が始まると、さらに戸惑いが募ります。

女性用のスーツを着ることや化粧をすることがどうしてもできず、ネクタイをしてノーメイクで面接会場に向かった水野さん。しかし、“女性らしさ”がないことを理由に落とされるのではという恐怖から、会場近くに着くとネクタイを外し、少し化粧をしてから面接に臨んだといいます。

「就活マナーみたいなものに洗脳されてたから、女性らしくないと落とされるんじゃないかっていう考えに襲われるんですよね」
「就活の女性らしさ、男性らしさに当てはまらない自分がおかしいんだ、間違っているんだ、狂っているから生きていてはいけないんだと思いました」

水野さんは徐々に追い詰められ、次第に家から出られなくなりました。そして最終的に、就職活動を断念したといいます。