走幅跳選手では史上2番目のスピード
2年前との共通点がある。21年は100mで10秒31と、前年までの自己記録(10秒74)を大きく更新した。今季も3月25日に10秒26をマークしている。
走幅跳の8mジャンパーで100mが最も速いのは、10秒02を持つ朝原である。走幅跳でも世界陸上決勝に進出したが、100mで何度も日本記録を更新し、五輪・世界陸上でも準決勝まで進出した。吉田、10秒37の泉谷駿介(23、住友電工)、10秒39の津波響樹(25、大塚製薬)の3人が10秒3台だったが、そこから吉田が抜け出した形だ。吉田はスピードが上がったタイミングで、走幅跳の記録も伸びている。
だが、安定性という点ではまだ、課題がクリアできていない。2年前は7月に8m14を記録したが、2週間前の日本選手権は7m73(+0.6)で7位、9月の日本インカレも7m48(+1.8)で9位と、安定した強さは見せられなかった。今年も前述のように、木南記念は7m67(+0.6)にとどまっていた。
助走スピードが速ければ速いほど、踏み切り動作を安定して行うのは難しくなる。
そして走幅跳は前半の3回の試技終了時に上位8人に入らなければ、残り3回の試技をすることができない。昨年の日本選手権のベストエイト進出ラインは7m78だった。2年前のような不安定さでは、日本選手権で入賞できない。
そこは吉田自身が強く自覚している。
「今日も3本目までは全然、思った動きができませんでした。3本目の7m91が3回目までの最高記録でしたが、今の日本のレベルでは(ベストエイトに残れたとしても)話になりません。日本選手権を見据えたら5本目の8m11くらいを3本目までに確実に跳んでおかないと」
吉田は標準記録を突破したことで、6月3日の日本選手権で3位以内に入れば世界陸上代表に内定する。4位以下であっても、他の選手たちの状況次第で代表に決まる。
大会によって記録が安定しない課題を抱えながらも、GGPで世界陸上金メダリストの王を破ったのも事実である。
「勝ちに行って勝てたわけではありません。やっぱり世界チャンピオンですし、中国のナショナルレコード(8m47)も持っておられる方なので、僕は足元にも及びませんけど、経験値としては少しだけ上がったかな、と思います。ブダペストでまたお手合わせできたらいいかな、と思っています」
スピードのある吉田には今後も、何かをやるのではないか、という期待を持てる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)