寝たきりでも住み慣れた“家に帰りたい” 50年連れ添った夫婦の望み

“家に帰りたい”という望みをこの病院に託し、寝たきりの状態で転院してきた大塚隆夫さん(83)
4年前に心臓の手術をしてから身体機能が衰え、たびたび肺炎などを起こすようになった。このときもひと月半、別の病院で治療したあと、おうちにかえろう病院に転院してきた。

大塚さんの妻・栄子さん
「(夫は)なにしろ家がいい、入院すれば『毎日来てくれ』『帰らないで』って言うし」

連れ添って50年になる妻・栄子さん。子どもはなく、趣味の旅行や釣りなど、何をするにもいつも一緒だったという。

この日、栄子さんは寿司が好物だという夫のために馴染みの店から折詰を持ってきた。大塚さんは飲み込むことが困難で家族の介助では危険を伴うが、病院には専門のスタッフがいる。
この寿司をガーゼに包み、味わってもらうことに。

医療スタッフ「大きく口開けてみて。奥歯で噛めるかね?」
妻・栄子さん「味わかった?」
大塚さん「マグロ」

妻・栄子さん「良かった。今日はなんだか元気そうで嬉しいわ」
水野院長「たぶん家で食べた方が良いんですよ。それができるなら、やりたいことを目標に患者と家族が“家に帰ろう”というのがベストだと思います」

寝たきりの状態になった患者の場合、自宅へ戻すことに二の足を踏む病院は多いという。しかし、この病院は迷うことなく帰宅を決めた
やまと診療所が在宅診療を引き継ぎ、家に帰りたいという本人の希望を叶える。

水野院長「今、必要なことは家でできることなので、家に環境を移そうかと。帰るという目標は伺ってて、そこはもう奥さんの中でもゆらぎはなかったし、どう考えても、おうちでの生活の方がしっくりくるお二人だったので、帰宅は普通にやっていけば実現できると思うんです」

おうちにかえろう病院に入院して10日後。

妻・栄子さん「お世話になったのよ、うちに帰るから。練馬に帰るよ!」

大塚さんは、親の代からの実家を引き継いでいる。生まれてから83年間暮らした我が家にようやく帰ることができた。

大塚さん「…家」

妻・栄子さん「良かったねー、あー良かった、お帰りなさい。嬉しい、泣けちゃう…ゆっくり休んで、うちだからね」

大塚さんは「お願い」と言っては、妻・栄子さんを何度も呼ぶ。これは入院する前からの習慣。いつもの生活を取り戻した。

大塚さん「お願い…」
妻・栄子さん「なんでしょう」
大塚さん「なんでもない」


妻・栄子さん「安心するんでしょうね、やっぱり。『はいはい』って言うとすぐにそばにいるよって。しばらく続くかな…」
大塚さん「お願いします」

妻・栄子さん「はいはい、わかりました。ふふ。もう全然違うと思いますよ。なにしろ我が家ですもん。住み慣れた我が家ね」