「最期まで自宅で暮らしたい」。
そんな患者の願いを叶える病院がある。その病院をつくったのは、“在宅医療のプロ”たち。彼らの取り組み、そして患者と家族の思いを取材した。
「おうちにかえろう病院」患者の心の内を汲み取り…元の生活の場へ

「『おうちにかえろう。病院』…変わったね、良い名前ですね」
2021年4月、東京・板橋区に開院した「おうちにかえろう。病院」
重篤な患者を治療する病院などから転院してきた患者にリハビリ等を行い、もとの生活の場へ帰すのがこの病院の主な役割だ。
病棟には、患者とスタッフを隔てる部屋や仕切りを極力なくし、自宅に戻る際の心配ごとなどがあれば気軽に打ち明けられる雰囲気をつくるなど、患者を家に帰すための様々な工夫がされている。
リハビリを行う場所も独特で、一階のロビーから続く奥にそのスペースがある。
ここにも壁はなく、隣接されたカフェは一般にも開放。
あえて人目のある空間にすることで、患者は元の生活を意識する。それがリハビリの意欲を高めることにつながるのだという。

この病院に転院してきた島﨑タツさん(84)は、持病の糖尿病が悪化し、心筋梗塞など他の病気も発症。救急病院に搬送された。
一時は生死をさまよったが、ようやく病状が落ち着き、この病院に移ってきた。タツさんは3か月に及ぶ入院で足腰が弱り、立つことも難しく、車椅子で移動している。
タツさんの夫・素之さんは、筋力が衰えていく難病を患い、タツさんが3年介護し、15年前に看取った。その後は、娘夫婦と孫に囲まれ穏やかに暮らしてきた。
介護の苦労を知るタツさんは、自分が病気になったことで家族の負担を何より心配していた。そのためか、娘の奈緒子さんへ「家に帰りたい」と話したことは一度もないという。

辰さんの娘・奈緒子さん
「『迷惑かけてごめんね』しか言わないですね。かかってないよって言ってるんですけど。(家に)絶対、帰りたいと思ってるんですけどね」
医師らスタッフは、そんなタツさんの心の内を汲み取っていく。