自分が鍵を開け、両親は連れ去られた 現在も抱き続ける「サバイバーズ・ギルト」

3姉妹がリアシェンコ一家の家族になってから、二女のヤナさんと三女のポリーナさんは次第に夫妻に甘えるようになり、2人の息子とも一緒に遊んで仲良くなっていった。
家族の中で、ただ一人、長女のユリアさんだけが黙りこんだままだった。家族の前で感情を出すことはない。話す言葉は「ありがとう」、「はい」、「こんにちは」の三言だけ。
無気力状態が続いていたが、一方で自分の顔を血が出るほど引っかくなどの自傷行為を繰り返していた。
実はユリアさんはショックで記憶を失う一方で、消したくても消しきれない心の傷を抱えていたのである。
2014年にドンバス地方で親ロシア派武装勢力とウクライナ軍の戦闘が行われた際、親ロシア派の兵士がユリアさんの家の呼び鈴を鳴らした。鍵を開けたのはユリアさんだった。
そのとたん銃をもった兵士が家に入り込み、父親を連れ去っていく。母親は父親を追って外に出たまま戻ってこなかった。
母は臨月が近く、お腹が大きかったという。ユリアさんはこの時の記憶を失っているが、二女のヤナさん(当時6歳)が一部始終を目撃して憶えていた。
リディアさんはユリアさんの心の傷を癒そうと手を尽くし、心理カウンセラーや精神科医にも診てもらったが、回復の手がかりは見つからない。
カウンセラーが治療のために原因を探ろうと過去の出来事について質問しても、ユリアさんは「憶えていない」と言ったきり、ふさぎこんでしまうのだ。
「ユリアは記憶を失ったことにして、辛い出来事を無理やり心の奥底に閉じ込めようとしているのかもしれない」
リディアさんは、そう考えることもあるという。生き残った者が感じる罪悪感「サバイバーズ・ギルト」。それを11歳の少女はたった一人で小さな胸に抱えて生きてきたのだった。