■人獣共通感染症のリスクを高める「木炭作り」

ガーナの幹線道路では、袋を満載した、一見ちょっと危なっかしいトラックをよく見かける。袋の中身は木炭。ガーナでは炊事などに広く使われている。

ただ、この木炭作りは人獣共通感染症のリスクも増やしている。ガーナ中部、アヒナシ近郊の森では木炭を作るため人々が木を切っている。切った木は集めて、草を被せて火をつけ、土で覆う。木が木炭に変わるまでには10日ほどかかるという。手間と時間のかかる作業だ。
現場で見た木はいずれも比較的細かった。

地元の元議員:
高い木は全部なくなりました。

ーー昔はたくさんあった?
地元の元議員:
もちろん!

かつてあった大木は建材などにするためにほぼ伐採され、残りの細い木も木炭にするため、日々切られていく。ここは森林保護区の外なので伐採自体は違法ではないが、かつてあったという森の面影はなく、人間が動物の住処に入り込んできたことがよくわかる。

ただ、木を切る人々は、好きでやっている仕事ではない、という。

木炭を作る男性(46):
他に食っていける仕事があれば、すぐにでもやめますよ。妻と2人の子供、それに親戚も養わないと。

22歳の母親、アコスア・オヒネワさんも同じだ。

木炭を作るアコスア・オヒネワさん(22):
本当はお店をやりたいです。店を持って、米とかを売るんです。

ーー将来、娘さんには何になってほしい?
アコスアさん:
服の仕立て屋です。

ーー学校は?
アコスアさん:
今は学校に行っているけど、出たら仕立て屋になってほしいです。私はお金がなくて(日本での)中学1年で辞めました。

ガーナでは約3100万人の人口のうち10%が、こうした森林の周辺部に住んでいるとされ、収入の多くを森に頼っている。ガーナ政府も国立公園内で行われる違法伐採の監視や植林事業を行っているが、森林の減少を食い止められていない。

■次のパンデミックは…「どこの国からでも可能性はある」

パンデミックを引き起こしかねない「人獣共通感染症」。そのリスクを高める森林破壊には、古くからガーナの主要産業の1つである金の採掘も関わっている。

金の採掘現場の1つに来た。上から見ると、森だった場所が跡形もなく切り開かれ、大きな穴がたくさん掘られているのがわかる。ただ、作業はしていない。聞けば、軍が来るとの噂があったのだという。

金を採掘する男性:
捕まったら牢屋にぶち込まれます。ぶち込まれて、殴られたりします。

ガーナでは、金の産出の3分の1をこうした小規模な採掘場が占めるが、その8割以上が無許可で行われ環境を破壊しているとして、政府は2021年から軍を投入して摘発してきた。効果は上がっているというが、いたちごっこでもある。

彼らが普段、どんな風に採掘しているのか見せてもらった。

秌場記者:
男5人がかりで(水面の)下をかき混ぜて、砂を吸い上げているところなんですね。

長い棒で水の底の砂をかき混ぜ、水とともに吸い上げる。その中に、光る砂金を探すのだ。1日で3~4グラムとれる時もあるという。

金を採掘する男性:
農業は季節ごとにしかお金が入らないけど、ここに来れば手早く稼げて、そのお金で好きなことができます。学校に通っているうちに学費が払えなくなって、ここで稼いで学校に戻る人もいますよ。

彼らの多くは20代前半から半ば。19歳の男性もいた。みな流暢に英語を話す。
危険も伴う重労働で摘発リスクもある中、進んでやりたい仕事ではないと口を揃える。

金を採掘する男性:
下手すると死ぬこともあります。機械に巻き込まれたら終わりです。

金を採掘する男性:
何か別の仕事が見つかれば、この仕事を辞めてそっちをやりますよ。

それでもガーナでは数十万人が小規模な金の採掘に従事しているとみられている。

ブッシュミートの取引、伐採や金の採掘による森林の破壊、どれも次なるパンデミック発生のリスクを高める活動だが、生活がかかっているだけに、コントロールするのは難しい。野口記念医学研究所のボネイ博士はこう警告する。

野口記念医学研究所 コフィ・ボネイ博士:
全ては経済的な動機です。みんなお金がないんです。だから未来のことなど構ってられないんです。悲しいことですけどね。森林破壊とか都市化とか…全ての国がやっていること。次のパンデミックはガーナから始まるかもしれませんし、こうした活動が活発な国であれば、中国や東南アジアなども含め、どこでも可能性はあります。

では、どうすればいいのか?博士は「早期警戒システム」の増強が必要だと言う。つまり危険な人獣共通感染症(それが既知のものでも未知のものでも)の兆候を見つけたらすぐに世界に共有し、相応の対応をとる、という体制の強化だ。それには知識や技術に裏打ちされた即応性、そして透明性が求められる。

一方でボネイ博士は、森林破壊を減らしたり、ブッシュミートをさばく人たちに感染対策を指導したりといったことも粘り強く続ける必要があり、その両輪でやるべきだ、とも強調した。難しいけど、諦めてはならない、と。

新型コロナが教えたのは、感染症は国境など関係ない、ということ。人間ほど世界を飛び回る動物はいない。どこで発生しても、あっという間に世界に拡がり、日本にも到達する可能性を常に含んでいる。遠い国の話だけど、遠い話ではないのだ。

(報道特集 2022年5月7日放送内容に加筆)
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