新型コロナウイルスやエボラウイルス病などの感染病の多くは、野生動物が媒介した「人獣共通感染症」と考えられています。新たなパンデミックを減らす対策と課題とは。最前線ガーナの現状を、ロンドン支局・秌場聖治支局長が取材しました。
■“ウイルスの宿主”コウモリから探る 次のパンデミックの兆候

ガーナの首都・アクラにある病院前の並木道。木にはおびただしい数のオオコウモリが宿っている。果物を主食とする「フルーツバット」だ。
秌場聖治記者:
枝という枝にコウモリがとまっています。今は午後4時15分。昼間はぶら下がって寝ているんですが、そろそろ動き出したようです。
このコウモリたちには伝説がある。
ある地方の王が体調を崩し、ここの病院に入院した際、コウモリたちも一緒にやってきた。王はそのまま亡くなってしまったが、コウモリたちは棺が病院から出るのを見ていなかったため、今でも王の退院を待ち続けているのだ、と。
「忠犬ハチ公」を思わせるが、あまりにその数が多すぎて涙をそそられない。
50万~80万匹もいるコウモリのコロニーがいつから存在しているのか、実ははっきりしたことはわかっていない。
午後6時、コウモリたちが一気に飛び立ち始めた。

秌場記者:
空一面、コウモリです。
空を覆わんばかりのコウモリたちは、これから餌場のある北へと向かうという。この病院前では、大量のコウモリと人間とが極めて近い距離にいる。歩道にはコウモリたちのフンがたくさん落ちている。これには懸念もある。
アクラにある野口記念医学研究所。当地にゆかりのある野口英世にちなんで名付けられたもので、日本の支援で建てられた。訪ねたのは1月。敷地内には新型コロナ検査用のテントも張られていた。
この研究所でウイルスを研究するコフィ・ボネイ博士は、コウモリの危険性を指摘する。

野口記念医学研究所 コフィ・ボネイ博士:
コウモリはたくさんのウイルスの宿主です。エボラウイルスの抗体も検出され、インフルエンザウイルスも、コロナウイルスも検出されています。他のものも調べれば出てくるでしょう。コウモリは免疫力が強い動物なので、ウイルスを宿していても何ともないように見えることもあります。
世界で620万人以上の命を奪い、人々の暮らしに史上稀にみる影響を与えた新型コロナウイルスも、コウモリが関与してヒトに感染した疑いが強いとされる。また、致死率の高いエボラウイルス病も、コウモリが関わっていると考えられている。これらは「人獣共通感染症」、つまり動物が持つウイルスが種の垣根を超え、ヒトにうつることによって起きる感染症だ。
ボネイ博士:
病院前のコウモリたちが落とすフンが有害かどうか、わかっていません。人々は頻繁に行き交っていますけどね。
次のパンデミックも、人獣共通感染症である可能性が高い。様々なウイルスの宿主であるコウモリの研究は、パンデミックの兆候をいち早くとらえるためにも重要視されている。