■「えらいこっちゃなと。紙切れ渡されて『熱望』『希望』『否』」
出撃に至らず生き残った、元特攻隊員の千玄室さん(99歳)。徳島の基地で突然、上官に特攻隊編成を告げられた。
「えらいこっちゃなと。紙切れ渡されて『熱望』『希望』『否』。“〇”をして、官姓名を書いて出せと。名前を書くなら絶対『否』とは書けない。一週間後、再び搭乗員整列。『本隊の隊員は全員特別攻撃隊員として指名する』と」
千さんは、千利休から数えて15代、裏千家の前の家元だ。入隊してからずっと考えていたことがあるという。出征前夜、父に千利休が切腹する際に使ったという脇差を見せられたことだ。
千玄室さん
「(千利休は)一言も弁解も何もせず腹を切った。だから私たちは一言も弁解できず軍に行く。軍に入ってから、なぜ父は短刀を見せてくれたんだろうと、そればかり思っていましたら、飛行機乗って初めて気づいた。そうか、俺は死ねんな。潔く腹を切るのはとても私にはできっこないな、悩みました」
■「俺たちは死にに来たんだ。なんのためや」仲間との別れの茶会
そんな中、千さんは持参していた茶の道具で同期の予備学生と別れの茶会を開いた。その時の仲間の言葉が忘れられないという。
「私が配給の羊羹でお茶をたててみんなに飲ますんですよ。旗生少尉が『千な、俺、帰ってきたらな、お前の茶室でほんまの茶を飲ましてくれや』と。それを聞いたときは、胸がグワーッと、俺たちはもう死ぬんだよ、死ぬんだよ。そういう気持ちであった時に、西村が立ち上がって『お母さーん』と『千の茶を飲んで急におふくろに会いたくなった』と。みんな立ち上がって故郷のほうを向いて『お母さーん』と。21や22ですよ。国のためとかなんとか偉そうなこと言うなよ、みんな議論した。俺たちは死にに来たんだ。なんのためや、愛する家族のためやないか」

“ただいまより出発します こうしているのもあと暫くです”
千玄室さん
「みんな飛行機で出ていくとき残っている者は『帽を振れー』と。送る時、辛いですよ。行ったあと、みんな座っていたところがぽかっと空いてる。電信兵がやって来て『ただいま旗生少尉、突っ込みました』。突っ込むとき、電信を最後ツーッと鳴らす。鳴ってる間は生きてる。プツン。切れた瞬間『亡くなりました、突っ込みました』」

















