「きれいなことが勝つ」というメッセージ

田幸 佐野亜裕美プロデューサーと蛭田直美さんが脚本ということで放送開始前から春ドラマナンバーワン作品になるだろうとは思っていましたが、1点だけ懸念していたのは、選挙というものがここ数年、投票率を上げればいいという素朴な時代ではなくなっていることでした。現実に二馬力が行われたり、YouTube広告がガンガン流されたり、誹謗中傷動画が問題になったり、選挙そのものが変容してきている。この点をどう処理するのか、単純に投票率を上げるだけではどうにもならなくなっている選挙・政治の現実に失望することが多かったのです。

でも実際に見ると、SNSやYouTubeなど、選挙におけるテクニカルな側面もしっかりアップデートして描いていました。これは佐野プロデューサーが、非常に多くの方と実際に面談し、膨大な取材をした成果だと感じます。政治や選挙の監修者のアドバイスもあって、今の選挙のファクトが情報量たっぷりに盛り込まれていました。

一方で、今の選挙のあり方がこれだけ詰め込まれているにもかかわらず、すばらしいと思ったのは、こんなにも今の選挙の闘い方や政治が複雑になっている中でも、政治のプロの茉莉が持ち込んでくる選挙のテクニックを超える正論、「きれいなこと」が結局は勝つという展開です。

私は選挙のドキュメンタリーや映画もすごく好きなんですが、選挙について知れば知るほど、絶望しそうになること、諦めそうになることがあります。そんな中、脚本の蛭田さんに取材をしたとき、蛭田さんが「私自身、散々ひどい目に遭ってきたし、『どう考えても悪』という人とも出会ってきた。でも、それなりにいろんな地獄を経験して、5周くらい回って、ああ、やっぱり最後にはどうしようもなく愛が勝つんだ、勝ってしまうんだ、と思い知ったんです」とおっしゃって、それを信じたいなと思わせてくれる作品でした。

きれいなことが今もちゃんと通用する。いろんなことが「きれい事」と言われて冷笑される時代に「きれい事じゃない、きれいなことだよ」と言うせりふがすごく印象的でした。

影山 名ぜりふでしたね。

田幸 「迷ったときは明るいほうへ」というのも、人生のあり方で指針になる。最終回のあかりの演説で1回グッと来て、その後に、それを超えてくるすごい演説を松下洸平さんが見せてくれて、さらにグッとなったところに、スマホが灯る。まるでいま、全国各地で行われているデモのペンライトを思わせるような形で、一つ一つのライトが灯っていく。今の政治や社会の風景と重なるものだと感じました。

影山 同じ佐野プロデューサーで「エルピス」(カンテレ・2022)と「銀河の一票」を比較すると、どうでしょうか。

田幸 「エルピス」もテレビ業界や政治と報道の闇をテレビドラマが描くという、非常に意義ある素晴らしい作品でしたが、モヤモヤが残りました。現実ってそうだよね、とも思い知らされました。その意味で「銀河の一票」のほうが読後感の良さはありましたね。なぜかというと「エルピス」の頃より今の暮らしがずっと苦しくなっていて、社会全体の痛みも激しくなっているので、やはり希望を見せてくれる作品を求めているんだと思います。

悪い人が1人も出ないみたいな作品がふえていますよね。優しい社会、優しい世界と言われる作品がふえている。蛭田さんの作品もよくそう語られるのですが、蛭田さんご自身は「優しい世界」という言葉が好きではないとおっしゃっています。「『優しい世界』ではなくて『世界は優しいんだ』ということを描きたい」とおっしゃっているんです。どこか遠くにある絵空事の美しさじゃなく、私たちが生きている世界を肯定する、希望を見せてくれる優しさ、それは今回の「きれい事じゃないよ、きれいなことだよ」につながっていると思います。

影山 ただ、これはファンタジー、おとぎ話ではないわけです。最後の松下洸平のすばらしい演説。

田幸 すごかったです。

影山 あそこで憲法の話がいきなり出た。あれはひっくり返りました。あの演説をどう捉えるかは人それぞれですし、ドラマの中でも松下洸平の物言いには反対だという場面もちゃんとある。でも、忘れてはいけないのは、あれだけ踏み込んだ演説を、ドラマの中で、しかも最終回でほうり込んだという点です。それをファンタジーとみなすのは雑だという気がします。

それから、これはメディアの問題だと思いますが、最終回が終わって、多くのメディアがこの作品を絶賛し、多くの記事が踊りました。でも僕の感覚では、憲法の問題を取り上げたことに触れたメディアは少なかったです。そこがすごいキーワードなのに。

憲法に踏み込んで語っている。この作品のそういった骨太のところは忘れてはいけないと思います。