「日の丸を見るだけで涙が出そうで…」

栗山監督:
野球って意外と、国歌って毎日試合の時にパ・リーグなんかは流すんですね。意外と国歌が普通になりすぎて、こう何て言うんですかね。流れの一つになっちゃうのはちょっと嫌で。僕もその国歌斉唱っていうのはこだわって選手をもう一回きちんと、今回、合宿の時から伝えたいなという風に思ってたんですね。そこはもう選手たちは当たり前に持っている感じなんですか。

栗山監督

森保監督:
そうですね、思っていると思いますね。特にベテランの選手は、経験のある選手たちが、若手にチーム全体に「国歌を歌うぞ」って。試合前から日の丸を見ながら、もう「国のために戦うんだ」という雰囲気づくりをしてくれますね。後は、私自身の経験で、出場回数は少ないんですけど、代表で選手としてもプレーさせてもらった時、初出場だった時に、やはり国歌と日の丸が全くそれまでと別(だった)。

栗山監督:
そうですか。

森保監督:
もう日の丸を見るだけでももう涙が出そうで。気持ちがこう上がってくるみたいなところ、日本人のこう何て言うんですか・・・魂と誇りと喜びがこう溢れ出てくるみたいなっていうのは、また、WBCでも皆さん自然と出てくる感情なんじゃないのかなと思います。

「魂をぶつけた」選手起用

森保監督:
海外で活躍するスター選手も多い中で、選手とのコミュニケーションをどうとられているかっていうことと、選手の個性を生かした起用の仕方をすごくされていると思うので、ポイントとなる考え方を教えていただきたいなと思います。

栗山監督:
今回のWBCの場合は本当に1発勝負で、実は11月に練習試合を4試合やっただけで、もうそこで本番なんで、実を言うとコミュニケーションをほとんど取れてないっていうのが現状。個々の能力を生かすしかないっていうのがまず前提としてあったので、とにかく僕の魂というか、一人ひとりの選手に、一緒にやった人もやってない人も「俺、日本の野球って今こういう状況だ。こんな風に一緒に戦いたいんだ」っていうのをただぶつけただけなんですけども。ただ、やっぱり責任のある海外のダルビッシュ有投手(36、パドレス)であったり、大谷翔平選手(28、エンゼルス)だったり、鈴木誠也選手(28、カブス)だったり、彼らはその状況を僕よりも理解してくれてて、非常にスケジュール的にはちょっと難しいスケジュールなんですけど「いやいやもうそのことはもちろん分かってます」と。だから「スケジュールさえ許せば、もう日本野球のために行きますよ」って。それは何か本当に体ごとぶつかっていきましたけど、何か僕よりも理解してくれてたって言うか。そんな感じだったんですね。

大谷翔平を二刀流起用した裏話

森保監督:
大谷さんを日本で二刀流でお使いになったのも、大胆な発想と大胆な采配だったと思うんですけど、まずその起用の仕方の発想につながったところは、どういうことなのかなとお聞きしたいです。

栗山監督

栗山監督:
元々、常識とか、過去こうだったとかっていうのが、あんまり好きなタイプではなくて、翔平の場合はちょっと特に特別で。彼を高校時代から見てて、接点もあったんですけど、投げるのと打つのが本当に二人いる。本当に「4番でエース」になれるというふうに僕は高校時代を見ていて、二刀流をするというよりも、どっちかをやめさせちゃう・・・例えば、今のヤクルトの村上(宗隆)選手に「バッターやめてピッチャーやりなさいよ」というような感じなんですよ。ですから「誰もどっちか殺すわけにいかないでしょ」っていう感覚だったんですね最初は。一緒にやってみて、行けるところまで行きたいと思って見てましたけど。

森保監督:
周りが見ているよりも、やはり近くで一番、一番近くで見ている人が、その選手の能力が分かるというのを、今お聞きできて良かったです。何かこう表向きにこう発信することではなく、やはり一番近くで見ている人が一番分かるんだなという。そこは監督としてもすごく共感が持てるところであります。

栗山監督:
普通「これ二刀流無理かな」ってちょっと一瞬、思うケースって出てくるかなと思ったんですけど、本当に1回も思わなくて。本当に2つできるんじゃないかという風に思わせてくれた選手だったんですね。

森保監督:
私自身も今すごく学びになりました。やはり過去にとらわれずに、その選手とチームにとっていいことを、パワーとなることを決断するということの大切さを教えていただきましたし、何よりもやはり選手たちの良さを消さないように、っていうところはすごく勉強になります。

「当落線上の選手の選び方、チーム編成のやり方」

栗山監督:
あとは監督。今、僕が迷っているのは、代表に入るか入らないかっていう線上にいる選手がいて、この決断ってもちろんいろいろなシミュレーションをしながら「こうなったらこうだこうだ」。それでも情の部分というか、感情の部分で「こいつ入れてやりてえな」みたいなのあるじゃないですか。それってどう処理してるんですか?

森保監督:
めちゃくちゃありましたというか、毎回あります、代表の活動ごとに。一番大切にしているところはチームファーストで決めるという。そこは信念を持って、決めていこうということで。チームファーストが選手ファーストになり…すみません、ファーストがいっぱいあってあれなんですけど(笑)。
チームファーストが日本ファーストにもなるっていう。「チームのために」が選手のために、「チームのために」が日本のために、となる選択をできるように、ということで考えてます。私一人だけで選手の選考をしてないですし、全体的にはコーチと何度もディスカッションをしながら、普段の視察してきたこと、活動してきたことを総合的に考えて決めていくので。だんだん最終的に何人かってなった時には監督案件になってくる。

栗山監督:
そうですよね。

森保監督:
考えられるだけ考えて、そこでタイムリミットが来た時に決断をするということを常に実践していきたいなと思ってますし、実践してきたと思ってます。

栗山監督:
個々の能力、特徴というのがある中で、それでもチームプレーというか、自分を殺してでもチームが良くなるような方向に行きやすい選手と、どっちかというとそれでも個を出していきたいっていう。それはやっぱり野球はあると思うんですけど、サッカーもあるんですか?タイプによって。

森保監督:
あると思います。もう同じだと思ってます。今回のワールドカップで言えば、26人招集した中で4人選手を使ってないんですけど、出場する機会を与えてあげられなかったんですけど。それも含めてやはりこう全員ニュートラルには見ますけど、何て言うんですかね、チーム構成の中での序列はやはりもっておかなければいけない。序列はいつでも変わるものですけど、今回であれば、メンバー選考する時の全体のチーム作りと序列というものは持った上で、また調子を見て変えていくみたいな。
色々サポートに回ることが多くなるだろうなっていう選手も含めて、色んな組み合わせを考えてチーム編成をしましたし、ひょっとしたら、このグループに入ってもらうだけでも次につながるな、その選手の成長につながるなっていうことでの招集なども今までもしてきました。