3月に開幕するWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の侍ジャパンを率いる栗山英樹監督(61)とサッカーワールドカップカタール大会で日本をベスト16へ導いた森保一監督(54)の対談が初めて実現した。世界を相手に戦う両指揮官が、気になる選手起用についてや代表監督としてチームを牽引する悩みをぶつけ合った。
栗山監督:
監督、ゆっくり話をさせていただくのも初めてで。本当に初めてお会いさせていただくんですが、今回の特にワールドカップはずっと集中して見させていただいて、何かずっと、今まで話をさせていただいたぐらいの感じのイメージがあるんですが。今日はよろしくお願いします。
森保監督:
宜しくお願いします。本当に敬語をやめてください(笑)。応援ありがとうございました。
栗山監督:
とんでもないです。
「監督の立場で見ていると吐きそうに…」
栗山監督:
あれだけの戦いをされて、それでちょっと時間があって、また日本を4年間支える、背負うということなんですけど、正直今ちょっとこう間が開いているところで、本音としては「いや、俺頑張ったな」と思われてるのか。それとも何か次のことが気になってしょうがないとか、どういう感じなんですか。

森保監督:
正直悔しい思いの方がすごく強い、強いですね。ただ、サポーターの皆さんであったり、国民の皆さんが日本代表の戦いを見てくださって、喜んでいることを見させていただいて。我々が戦う意義、やはりサポーターや国民の皆さんのために、日本のために戦って喜んでいただくということが大切だと思うので、そこは素直に喜ばせていただいて。皆さんの笑顔が我々の喜びにつながっているなというのを感じさせていただいてます。
栗山監督:
いやぁ、確かにそうですね。監督の立場からすると目標に達してないというのはあると思うんですが、ただこれだけ日本中の人に元気とか勇気とか力とかを与えてもらえる何かその大きさって言うか。僕は実は気持ち悪くなってきちゃって、監督の立場で(試合を)見ていると。先にやっぱり強いチームにリードをされるわけじゃないですか、これってなんか、僕なんか、吐きそうになる。
森保監督:
どこかのメディア上で栗山監督のそのコメントを見ました。
栗山監督:
監督自身はあの時はまだ冷静ではあるんですが?「こういう展開はあるな」みたいな感じなんですか?
森保監督:
そうですね、わりとこう感情の波はなく、冷静に入れてると思います。相手も強いですし、何て言うんですかね。押される展開もある。
栗山監督:
イメージはしていたから?
森保監督:
想定してやっていますので、こういう展開もあるなとは思いながら僕は戦ってますね。
栗山監督:
冷静にこのまず、1点いかれても、このままキープできていれば、終盤勝負にいけるんだっていう感覚なんですか。
森保監督:
そうですねはい。もうおっしゃる通りです。理想はスタートから圧倒すれば理想ですけど、世界のトップになかなかその理想的な戦いは難しいなというのは、もう試合の前にも覚悟していて。試合の準備の段階から、そして試合の直前のミーティング等々でも、選手たちに「難しい戦い、厳しい戦いを覚悟して、我慢強く、粘り強く」っていうことを忘れずに試合を進めていこうと。ただ我々が集中を切らさずにチームとしてのつながりを持って最後まで戦えば、必ず勝つチャンスは出てくるということで試合に臨んでいたので。まずは、切れずに戦うことが大切かなとは思ってました。
「代表監督は自分のイメージをチームに伝えるべきですか?」
栗山監督:
監督の頭の中を・・・僕ももちろん初めてなので、代表チーム。ある程度こう、イメージしていることは選手に伝える、ちゃんと伝えるべきですか?伝えた方がいいですか?
森保監督:
そうですね。その試合で起こるであろうという監督としての想像は伝えてもいいのかなと思いますね。その想像も当たるかどうか分からないので。そうでなくなった時のプランB、プランAがダメだったときのプランB、プランCみたいなところは柔軟に対応できるようにっていうことで。監督コーチから別プランを準備するということと、やはり野球もサッカーも同じだと思いますけど、プレーしている選手たちが相手との駆け引きの中で臨機応変に対応するっていうところは絶対に持たなければいけないと思いますので。自分たちが準備してるプランと臨機応変に対応する部分は持っておけるようにということを働きかけはしていると思いますね。
栗山監督:
そういう意味では監督が言われた通り、苦しくなった時に・・・まあ、僕は自分のプロ野球のペナントレースっていう感じの経験なんですけど、こっちは最後まで諦めずにチャンスがあるんだと思って、試合をこう進めていく。ベンチの選手たちはやっぱり分かりますよね、展開を読んじゃって「今日はダメだな」って。その空気が一番嫌で。そういうところってもちろんありますよね。
森保監督:
そうですね、あると思います。何となく見てたら、やっぱ現場の空気感っていうのは。データには出てこないですけど、何となくこう伝わってくるところはありますので。ワールドカップに関してはまったくその空気はなかったですね。
栗山監督:
絶対勝つんだって、みんな一緒なんですね。
森保監督:
リードされている時は「勝つんだ」っていうとこまで行ってないかもしれないですけど。でも「追いつくんだ」っていう「1点取るんだ」っていう気持ちを全員共有できてたかなと思いますね。あと、私は鈍感力があるのかもしれないですけど、ベンチが何か変な空気だっていうことは、代表で戦っている時に感じたことはそこまでないですね。
ゼロではないですよね。何試合か、ちゃんとアップしてないなと試合に入りきれてないなっていうのは見たことありますけど、本当に少ないです。
栗山監督:
そこはやはり本当に魂というか、心の部分を100%、みんな同じ方向を向いているっていう感じ。
森保監督:
そうですね。はい。
栗山監督:
例えばサンフレッチェで監督をやるとか、Jリーグのチームとの戦いの時は多少。そこは違いはあるんですか。代表ってやっぱり代表だからなのか。それでも監督がやられるとみんなそこは全然ないですよという感覚なのか。
森保監督:
感じる能力を持ってないかもしれないです(笑)。
栗山監督:
いえいえ、とんでもないです。監督がやられるとそうならないんですね。それも凄いですね。
森保監督:
あるとは思いますけど、こういうストレス抱えている選手、みんな試合に出たいんで「なんで俺が試合に出れないんだ」っていうのは絶対あるじゃないですか。まぁ、あるとは思いますけど、でもなんかこう準備はちゃんとやってくれているとか。苦しいながらも、ストレスを抱えながらも、チームとしてはやる姿勢を見せてくれているっていうところを、頑張ってやろうとしてくれてるなっていう感じには、今までは思えてきていますので、クラブと代表との違いももう大きくは感じないんですけど。より代表となると、違った魂で、またこうワンランク上の魂で戦うっていうのを自然とあの試合前の君が代、国歌を聞いた時に歌った時に自然と魂が注入されますね。
栗山監督:
やっぱりそうなんですね。
栗山監督:
いや、何かあの日本代表の戦いがこう心に落ちてきます。何でああいう風な、ある意味、凄い戦いになったのかっていうのは、監督の思いが選手達にきちっと伝わってて、監督は簡単に言われますけど、多分4年間の準備で自分の思いとかコミュニケーションとかをしっかりとられたんだなっていうのをすごく感じてて。あの戦いが「なるほどだからか」みたいな。そんな感じで聞いてたんですけど。