スキップしかしない回もある「ばけばけ」

影山 「ばけばけ」(NHK)へいきましょう。

田幸 本当にすばらしくて、これまでの朝ドラの中でトップクラスに入る作品です。

小さい頃から貧困に苦しめられてきた主人公が家族のために、世間から冷たい目で見られがちな外国人宅に住み込み、そこで出会ったヘブン先生と恋に落ちる。

物語そのものは、最初の方にそういった波乱万丈がぎゅっと凝縮されていますが、途中からは何も起こらない。その何も起こらない日常を描くのが、実は一番難しい。毎日15分を積み重ねて、何も大きなことが起こらず、ゴールがあるかないかもわからない。

日常を飽きさせず描き続けた朝ドラでいうと、これまで一番成功したのは岡田惠和さんの「ひよっこ」(2017)だと思いますが、成功物語ではない、普通の日常を描き続けるというところが「ばけばけ」はすばらしい。

登場人物のかけ合い、やりとりが現代語で笑いたっぷりに描かれているのに、チープや下品になっていない。その理由は、全身表現ができる舞台出身の役者さんが多いことと、演出が妙なBGMなどで笑わそうとしない、チープな演出をつけずに役者さんの力を信じている点にあると思います。

そして映像がきれいで上品です。大阪制作の朝ドラでは初めて大河のカメラを使っている。上質なカメラを使って奥行きをしっかり見せて、この作品の重要な要素である光と影をしっかり見せています。

だから画面が、これまでの朝ドラで見たことがないほどちょっと暗いのですが、暗いからこそ差し込む光のまぶしさが強調されていて、総合力として、この作品は今までにない朝ドラになっています。

倉田 何も起こらない日常を描くというのは、脚本のふじきみつ彦さんもおっしゃっています。SNSでも話題になった、みんながただただ下手なスキップを披露して家族で笑って、楽しかったね、終わり、みたいな「スキップ回」のように、本当にささやかな日々が描かれているんです。

まったくドラマチックでないのになぜ見てしまうのかと考えたら、やはり役者さん、スタッフ全員の、自分たちはいいものをつくっているという自負が画面にあふれているからだと思います。

ささやかな日常の積み重ねを見ることで、こういった人たちの日常が何百年、何千年とあって、その先に今の自分があるんだという壮大な思いになる。だからこそ、自分も日常を大切にして生きなきゃという謙虚な気持ちにもなったりして、つくり手の力と意気込みをすごく感じさせる作品だと思っています。

影山 まさに今朝の放送分、結婚の顔合わせのエンディングを「だらくそ(バカヤロウ)」という言葉で締めるあたり、過剰に笑えよ笑えよではなく、さりげなく温かい、見ている者が微笑んでしまうようなつくりになっていました。

ドラマチックなものだけがドラマではないということですね。日常を淡々と描いても、つくり手や演者がすぐれていれば、すばらしい作品ができるというのが「ばけばけ」であり「ひらやすみ」だったのではないかと思います。

       <この座談会は2026年1月9日に行われたものです>

<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト。
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。
朝日放送ラジオ番組審議会委員長。
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員。
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など。

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。