証人台での堂々たる答弁に「一同敬服」

スガモシアター

米軍が管理するスガモプリズンには、シアターがあった。映画「七つの顔」(松田定次監督 1946年)は、片岡千恵蔵主演の現代劇で、片岡が扮する探偵・多羅尾伴内が変装し、七変化するミステリー映画だ。人気シリーズにもなったが、幕田の好みには合わなかったようだ。そもそも初公判前の緊張した気分の時に心に届くものではなかったのだろう。

11月26日から始まった石垣島事件の裁判は、1948年の年が明けてから審理がスピードアップし、連日、被告人質問が行われていた。山形市に住む幕田稔大尉の母トメのもとへ初公判前に「マクタミノル様の官選弁護人に選任された」と知らせてきた湯川忠一弁護士から、2月2日の日付が入ったはがきが届いた。最初に「ありがたく頂戴いたしました」と書かれているので、トメが何かを届けたのだろう。「裁判もだんだん進み、稔様の個人調べも四日間にわたり本日終了いたしました。稔様は実に堂々と答弁され、一同敬服しました。昨今は井上司令の調べが始まりました。とりあえずご回答まで申し上げます」と記されている。回答と書かれているので、裁判についてトメがたずねたのだろう。しかしトメが本当に聞きたかったのは、審理スケジュールの進行や息子への褒め言葉ではなかったのではないか。