死刑制度は今や世界の少数派だ。先進国ではアメリカと韓国、そして日本だけだ。アメリカは半数の州で死刑が残るものの連邦としては廃止。韓国も制度はあるが長く執行していない。が、日本は制度の存続はもとより、執行自体も度々報告される。更にその手段も明治以降150年間変わらず絞首刑だ。そんな日本で今、死刑をめぐる裁判が行われている。執行を待つ死刑囚による異例の提訴だった。その裁判で、ある録音テープが公開された…。
■死刑執行を本人に伝えるのは1~2時間前
問題の裁判は、大阪拘置所の死刑囚2人の提訴によるものだ。その訴えとは…。
「死刑の執行を当日に告知することは法律に定められておらず、不服申し立ての時間がなく、憲法などに違反する」というものだ。
現在、慣例として死刑執行の本人への告知は当日1~2時間前となっている。事前に告知することにより、本人の心情に著しく害を及ぼすことを懸念するためと法務大臣の一人は言った。事実、告知後に自殺を図った死刑囚もかつていたという。
この裁判の証拠として、ある録音テープが提出された。それは今から67年前、告知から執行までの最後の3日間、死刑囚の肉声を記録したものだ。当時は事前告知だった。
■「報告します。刑執行2時59分。刑終了3時13分2秒。所要時間14分2秒。終わり」

これを秘密裏に録音したのは当時の拘置所所長だ。
1955年 大阪拘置所内の音声(当時所長:玉井策郎氏録音)
所長「できるだけのことはやるからね。誠に残念だが、これはやむを得ないね」
死刑囚「長かったですねぇ」
落ち着いた声だった。教誨師(きょうかいし)との会話では死刑囚が飼っていたカナリヤの鳴き声も聞こえてくる。
教誨師「病に侵され死するものあり、狐火に当たって死する者あり、これ皆前世の業因なり」
(カナリヤの鳴き声)
死刑囚「みんなにはこれまで嫌なことばっかり言うてね、まぁ腹立つことばっかり言うてきたんですけどね・・・」

この日は他の死刑囚との送別の茶会もあった。録音には死刑囚たちが歌う“蛍の光”が流れる。
2日目には送別の句会まで開かれた。その後たったひとり死刑執行の連絡を受けた姉との面会があった。
死刑囚「それじゃ姉さん、長い間ありがとうございました。どうかお母さんにもよろしく申してくださいね。そして子供のことはくれぐれもよろしくお願いします」
(姉の嗚咽)
死刑囚「姉さん、もう泣かんで・・・。笑って別れましょう。どうか僕の逝く時間には**(死刑囚の名前)って・・・、**って大きな声で呼んでや」
姉「**ちゃん!」
死刑囚「姉さん」