「戦後80年」愛子さまも戦地に心寄せ

終戦から80年。戦争を体験した人が少なくなる中で、先の大戦の記憶を継承することが重要だ。これは皇室が大切にしてきたテーマでもある。陛下は今年の「全国戦没者追悼式典」あいさつの中で、「戦中・戦後の苦難を今後とも語り継ぎ」という文言を新たに加えられた。次世代に伝えていきたい思いをにじませた形だ。

2月の記者会見では「愛子にも、戦争によって亡くなられた方々や、苦難の道を歩まれた方々に心を寄せていってもらいたい」と述べられた。愛子さま自身、成年会見(2022年)の場で、中学3年の時に訪ねた広島の原爆ドームや資料館のことが忘れられないとした上「私は今でも、平和への強い願いを持っている」と話されている。

上皇ご夫妻の“慰霊の旅”は、天皇皇后両陛下に受け継がれ、そして今年愛子さまも同行された。天皇が象徴としてのぞむ戦没者慰霊の場に子を伴われるのは、平成の時代には例がない。しかし「記憶を継承したい」という両陛下の強い考えや愛子さまの思いもあり、「戦後80年」の慰霊にはこの形がとられた。

6月の沖縄では「沖縄県平和祈念資料館」を訪問。愛子さまは、戦中の少年が壕の中で目撃した証言を読まれた。その内容は「みんなが生き残るために誰かを犠牲にする」という趣旨のもの。

愛子さまは展示を見つめながら「本当にすごく壮絶だった…」「生きていくためにこういう選択をしなければならない」と言葉を発し、沈痛な面持ちだった。別の場所では、戦争で家族9人を失った遺族とも言葉を交わされた。

高良政勝さん(当時85)
「両陛下の訪問も非常にありがたいけれど、特に愛子さまがおいでになられたことが、非常に大きなことだと思います。皇室が関心をもってくださっていることは非常に記念館にとってはありがたいこと。多くの人に知ってもらって、平和を維持するために非常に大きい役目を果たしているんだなと」

秋には初めて、東京大空襲などの犠牲者を祀る「東京都慰霊堂」へ。愛子さまは遺族との懇談にものぞまれた。戦争を体験した田中洋子さん(82)は、「(戦後生まれのご一家は)当時を体験していないけれど、我が身になって考えられていると感じました。愛子さまと直接お話しできたことはありがたく、若い世代に戦争の記憶がつながっていけば嬉しいです」と話した。

すべての行事が両陛下と一緒ではなく、単独の訪問もあった。11月には、日米1万人以上が命を落とした激戦地「ペリリュー島」に関する映画をおひとりで鑑賞。

同島は、祖父母の上皇ご夫妻が「戦後70年」に訪問したことで有名だが、それをきっかけに制作された映画だ。約2時間、戦禍に散った日本軍を描いた作品を見て、命の尊さと平和への思いを新たにしたという。同世代の出演俳優らと、話される場面もあった。

このほか、映像に残っていないものも含め、愛子さまは戦争の関連行事を通して戦後生まれの語り部らと交流される場面が多くあった。先の大戦を知らない世代が、戦争について話し合い、記憶を継承していく。まさにこれを体現された形だ。


若い皇族・公務の貴重な担い手として注目される愛子さまが、様々な地を訪ね、活動に取り組み続けることで、一般に知られていない事柄に光が当たる。また、現地で交流する人たちに勇気や元気を与えられる。それは、皇室の活動として意義深いことだと思う。2025年、たくさんの“初めて”を経験された愛子さまは、この経験を胸に、来年以降も走り続けられるだろう。
(TBSテレビ社会部・宮内庁担当 岩永優樹)