気温30度を超える中行われた9月の東京世界陸上。見ている人の度肝を抜いたのが女子マラソンで7位入賞を果たした小林香菜(24、大塚製薬)だ。序盤はレースを積極的に引っ張り、後退しても7位まで順位を上げた懸命な走りを見せた小林。早稲田大学法学部、「ホノルルマラソン完走会」というサークル出身という経歴に加え、総務省を目指していたという過去も話題になった。

異例の肩書きに加え、初めての夢舞台で日本勢3大会ぶりの入賞。同時にそれは小林にとっても新たなスタートとなった。中継の解説を務めたシドニーオリンピック™女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんも「過酷なマラソンは終わるんです。終わるんですけど彼女のマラソンのスタートはここから始まりそうですね。これからの成長を楽しみにしたい選手」と述べた。それから約2か月後の11月5日。高橋さんは、今月23日号砲のクイーンズ駅伝へ向け練習を行う小林を取材に、練習拠点の徳島県鳴門市を訪れた。大塚製薬陸上部に入部してから1年半で小林を「世界レベル」にまで育てた河野匡監督へのインタビューでは、世界陸上で結果を出せた要因と3年後のロサンゼルス五輪へのビジョンが見えた。

名将が語る「規格外」な1年半の成長

高橋さん:振り返ってみると大塚製薬に入部してきたのが去年の4月。1年半でこれだけ大きな飛躍をしたのは何が一番の要因ですか?

河野監督:それが分かれば逆に私も次の方向性が見出しやすくなるんだけど、陸上界でもこんな形で飛躍してくる選手って今までいなかったと思うので、そういった意味では、ある意味「規格外」であるということと、彼女がそれまでに専門的なトレーニングをしていなかったっていうことも含めて、結果としてはもう驚きと戸惑いしかないですね。通用するのはマラソンしかないだろうなと思っていたし、MGC(マラソン日本代表選考会)に出られたら官僚を目指していた人間が実業団に入ってきた甲斐があったなという風に思えるだろうと。そこまでは育てたいなとは思っていましたけど、まさかまさかだよね。

高橋さん:じゃあ河野さんの想像の上を行く状態で、ずっと来ている?

河野監督:ですね!もう去年の9月ぐらいからずっと結果としては驚きばかりですね。