「どの区間になっても役割を果たす」(山本)

山本自身、「今年の積水化学はチーム力が上がっている」と感じている。

「積水はまず個々が強いと自信を持って言えます。同じシーズンの世界陸上代表が3人もいますし、それに加えて今年は“チームで”という意識がすごくあるんです。ただ自分が走ればいい、だけでなく、周りの人が走れるように、という思いやりもチームの中に感じられます。そこが駅伝に生きてきてほしい」

世界陸上の山本は、「田中さんと自分のために走った」ことで力が発揮できた。同じことが駅伝でも起きる可能性がある。

佐藤が20年の日本選手権10000mで、新谷のペースメーカー役を引き受けたことがあった。2000mまでを新谷の希望するペースで引っ張り、新谷は30分20秒44の日本新を出し、佐藤も31分30秒19の自己新を出した。順位が重要視される日本選手権で、ペースメーカーを引き受ける例は世界陸上と同じで普通はあり得ない。しかし「佐藤は新谷から頼られて、嬉しそうでした」と野口監督は当時を振り返る。

東京世界陸上の山本も同じで、「尊敬するし大好きな先輩」である田中と、一緒に世界と戦うことが嬉しかった。選手はそういった気持ちになれたとき、プラスアルファの力が働く。もちろん前回、最終6区で逆転された悔しさも、選手全員が持ち続けてきた。

レース直後、田中希実選手と抱き合う山本選手

「去年の悔しさを晴らせるように、全員で今すごく良い練習ができているので、王座を奪還できるようにまとまって頑張っていきたい。駅伝は次の人のために、自分がどう走るべきかをタスキをもらったときにしっかり判断して、その役割を果たしていけば優勝できると思います。自分もどの区間になっても、その役割をしっかり果たせるように準備したいと思っています」

今年の山本は距離の長い1区(7.0km)、3区(10.6km)、5区(10.0km)への出場が予想される。山本は10kmのレースは、今年2月に1回走ったことがあるだけだ。トップ選手の参加が少ないレースで、前半を抑えて後半をペースアップして勝つことができた。だが今回は、最初からハイペースで入る展開になる可能性が高い。普通であれば不安がつきまとうケースだが、今の山本はどんな距離でも力を発揮できる。その自信を持ってクイーンズ駅伝に臨もうとしている。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)