過酷なレース環境にむしばまれた肉体

 鈴木さんを再び襲った体調の変化。下された診断は「オーバートレーニング症候群」。文字通りトレーニングのし過ぎにより疲労が回復しない状態に陥ることで、競技者としてのパフォーマンスが低下し、心身の不調が長期間続く症状を指す。

 本来は練習環境が原因で起こる症状だが、鈴木さんの場合は、世界陸上ドーハ大会の過酷な気象条件が発症の原因となった。男子50キロ競歩は中東の暑さを考慮し。異例の深夜に行われた。しかし、それでも気温が30度を下回らない高温に加え、多湿の気象条件下で4時間余りをかけて歩き切ったことが、鈴木さんの体へのダメージを大きくすることになった。

 あのドーハで何が起きていたのか?鈴木さんは当時をこう振り返る。


鈴木雄介さん
「タイムが物語っているというか、他の大会だと3時間45分とか。20分ぐらい違うので相当な差。自ずとペースが遅くなるので、結局(歩く)時間が長くなる。計算すると大体5キロプラスぐらいの(ゴール)時間になっている。ドーハの大会の時に最後、徒歩して給水したが、ちょうど最後6キロぐらい。思い返してみれば、そりゃそうかと。あそこが正直なところ限界だった。いつもだったら50キロの時間があのくらいで終わっていたのが、プラス20分だったので、本来は枯渇して出し切っている時間を歩き切ったので、それだけのダメージが蓄積した。」

 その後の競技人生を大きく狂わせた劣悪な環境。選手生命にもかかわるレースを経験した鈴木さんは、大会の運営方法に疑問を投げかけ、改善を強く訴える。