一番の力は林コーチの存在

跳躍練習以外は、できることは全てやってきた。今季からは片脚でのスクワットなど、筋力トレーニングも跳躍選手に適したものを行い始めた。地面に加える力を計測できるフォースプレート(床反力計)や、バイオデックスという関節毎の力を測定できる医療器具で、データも取り続けている。バイオデックスは計測を行いながら、筋力トレーニングにも活用できる。

赤松は「前の週と比較できたり、セット数を多く行う時も、後半でどういう下がり方をするかわかったりします。指標となるものを確認しながら練習を進められると、質の高いトレーニングができます」と、今季から積極的に活用している。地元開催ということも赤松にはプラスに働く。昨年のパリ五輪では観衆が自分に注目している、と感じて集中力が増した。「自分のテンションを上げて、それを踏み切りにつなげられるようになりました。歓声や拍手が、集中するための入り口みたいになっています。今回は地元で、国立競技場に来てくれる知り合いや友人も多くいるので、そういった方の応援を借りながら跳べるのが、本当に楽しみです」

サポーターの存在や会場の雰囲気も大きいが、一番の力となるのはやはり林コーチの存在だ。パリ五輪では赤松の技術に問題がなく、技術的なアドバイスは1回しかしなかったという。あとは「楽しもう」と林コーチは言い続けた。大学4年時から9年間続く2人の関係は、パリ五輪に限らず阿吽の呼吸になっている。それが小指の痛みという問題を抱えていても、赤松が不安なくトレーニングを続けられる一番の理由だ。故障があっても世界トップレベルを維持できる理由を質問すると、林コーチは次のように答えた。

「2人の間で色々考えてやっていますが、最後は踏み切りを海外の選手みたいに力強く行いたい、ということを目指すことで2人の認識が一致しています」ウ サンヒョクやG.タンベリ(33、イタリア)のような踏み切りを目指すべきモデルにしている。特に同じアジア人のウ サンヒョクのような踏み切りは理想だという。「赤松は全身が跳躍に適した硬い筋肉なのですが、もともとの筋量が少ないので、その域に達するのは難しいかもしれません。それでも踏み切りのパワーを測定すると、数値はどんどん上がってきています。2人で考えたトレーニングで良かった、と確認できていますね」

ブダペスト世界陸上までは踏み切りよりも、主に助走に注力していた。体調にも左右されるので常時100%の助走ができるわけではないが、助走はある程度完成形に近づいた。左足小指のケガをしたことで助走の最後の局面が練習できなくなったが、ブダペスト後は踏み切りに取り組むタイミングだった。2人の強化ポイントが一致して、同じ問題意識でトレーニングを継続したことで、痛みはあってもメダルを目指せる状態で世界陸上に挑むことができる。あとは助走を、思い切ってできるかどうか。林コーチが側にいることで、赤松は安心して痛みとの戦いにも臨むことができる。