跳躍練習なしでパリ五輪5位のサプライズ

ライバルたちもそうだが、赤松にとっては左足小指の痛みが難敵になる。23年ブダペスト世界陸上前から痛み始め、帰国後一時は痛みが引いたが、24年の室内シーズンで痛みが大きくなり、3月末にボルトを入れる手術を行った。そのボルトは今も入っている。「ブダペスト前は月に1回か2回は(バーを跳ぶ)跳躍練習を行っていましたが、昨年は5月に一度やったのが最後でした」

跳躍練習はできないが走る練習とウエイト・トレーニング、加圧トレーニングなどを中心に、フィジカル的には良い状態を作ることができた。それでも跳躍練習なしでの五輪5位は驚異的と言えるだろう。「赤松の跳躍選手としての感覚が優れているから、それができたのだと思います」と、岐阜大時代から赤松を指導する林陵平コーチ(岐阜大監督)は言う。「しかし跳躍練習ができる方が良いのは当然です。今年2月にチェコで室内競技会を3連戦したときも、5月にドーハで2連戦した時も、1試合目は動きが良くありませんでした。7月の日本選手権もウォーミングアップを見て、今日は厳しいかもしれない、と感じましたね。助走の最後でカーブを描くところが直線的になっていました」

助走の最後でカーブを描くために身体を傾ける時に、左足を身体の外側に踏み出す動きが必要になる。踏み切り時よりも、助走のその動きをする時に痛みが走る。「こういう助走をしたらここで痛みが出る、と体がわかってしまっているんです。最後はリミッターを外した状態で突っ込めるかどうか、です」

決して危険なことをしているわけではなく、ドクターからも「最後だからやるしかないよね」という言葉はもらっている。赤松自身もその覚悟を固めている。「僕としてはもっと回り込みたいのですが、今年の試合は助走の最後をまっすぐ気味に走ってしまっています。後のことは考えず、世界陸上は思い切って、本来やりたい助走をしようと思います」

痛みが出ることに身構えず、助走の最後でしっかりカーブを描けるか。最後は赤松のメンタルが勝敗を分けることになるかもしれない。