■後手を踏んだ米軍コロナ対応、背景に“特殊事情” 

徹底した水際対策で新型コロナの感染拡大を抑え、新たな年の幕開けを外交成果で彩る。岸田政権が描いたプランはスタートからつまずいた。

沖縄、山口など、アメリカ軍基地を抱える県を中心に感染が急拡大し、3県にまん延防止等重点措置を適用する事態となったからだ。

政権にとって想定外のスピードで感染者が急増した要因として、各地のアメリカ軍から市中へ伝播した可能性が指摘されている。日米両政府のコロナ対応はなぜ、後手に回り、感染を広げたのか、取材を進めていくと、アメリカ軍の特殊事情がコロナ対策のいくつもの壁となっていた実態が浮かび上がった。

■アメリカ軍が広めたのか 総理への追及

「自治体から米軍基地が感染拡大の原因との声が相次ぐが」
「日米地位協定が水際対策の抜け穴になったとも捉えられるが」
「米軍から漏れ出たとなると、厳しい水際対策が効果をなさなくなる」
「岩国や広島なども米軍から広まったとの見方もある」


2022年1月6日、沖縄、山口、広島3県へのまん延防止等重点措置を適用する方針を表明した岸田総理に記者団から感染拡大とアメリカ軍との因果関係を問う質問が次々と浴びせられた。会見室ではなく、短時間で終わることの多い官邸のぶら下がり取材では異例の事態。

1月5日時点で感染者数が、沖縄県内の海兵隊で493人、山口県の岩国基地は累計434人(昨年12月20日以降)に達し、基地周辺の住民の間でも感染が拡大し始めていたからだった。

■「兵士の遺伝子情報は機密扱い」進まぬゲノム解析

本来ならば、この日は初の本格首脳会談のため、オーストラリアに出発する予定日だったが、岸田総理は「国内のコロナ対策に万全を期す」と話し訪豪を断念。だが、この日は「米軍側の全ゲノム解析結果を待っており、感染拡大の原因や感染ルートを断定することは難しい」と消極的な回答を繰り返さざるを得なかった。

官邸幹部は「日本でのゲノム解析をアメリカ側が許可しない。兵士の遺伝子情報は軍事上の機密にあたるという考えだからだ」と軍隊特有の理由が解析の遅れの背景にあると明かす。

ゲノム解析はアメリカへ検体を送り、昨年末から実施されているが、日本側の催促に対して、具体的な結果判明の時期すら回答がない状態だ。

■「米軍の『染み出し』が要因」 怒る地元

ゲノム解析結果という決定的な“客観証拠”がない限り、アメリカ軍が要因であろうという“状況証拠”しかない。そんな政府の姿勢に、沖縄県をはじめ、地元自治体の首長は苛立ちを募らせている。

沖縄県や山口県岩国市は、ゲノム解析でアメリカ軍基地従業員と市中感染とみられる県民のオミクロン株のゲノム系統が一致したことを指摘する。沖縄県の玉城知事は「感染拡大の大きな要因の一つが米軍基地からの“染み出し”だ」と憤った。

2021年12月中旬にアメリカ軍キャンプ・ハンセンで集団感染が発生して以降、沖縄県内の感染者は拡大を続け、1月7日には過去最多の1414人に上った。