■「ただの風邪なのに」「日本はなぜ鎖国的に」深い日米の認識の溝
2021年12月、すべてのアメリカ軍基地で日本への出国時にPCR検査が9月以降は実施されていなかったことなど、アメリカ軍のずさんな検疫態勢が明らかになった。日本政府は、出国時の検査の徹底や入国後待機期間の行動制限の重要性などを繰り返し訴えたが、ワクチン接種の効果などを重視するアメリカ側にその切迫感は伝わらなかったと、複数の関係者が証言する。
ある官邸関係者は「強い言葉で言っても、『ただの風邪なのになんでそんなに言うのか』『日本はなんで鎖国的になっているんだ』と、話が通じない」と明かす。新型コロナ感染に対する認識の落差も、日米が協力して感染防止を進める上での大きな障壁になっていた。
■「今、やれる対策をすぐに米軍もやるんだ」
「基地のある沖縄や山口は医療体制が脆弱な地方だ。感染が広がれば、すぐに医療が崩壊してしまう」「街で感染が広がっていることが現実だ。米軍との因果関係が判明していなくても、今、やれる対策は、すぐにアメリカ軍もやるんだ」日米の当局間のやりとりの中、日本側は必死にアメリカ側に訴え続けたという。政府関係者は「相手はアメリカ人なので、最後まで我々と同じ感覚にはならなかったが、少なくとも日本側の感染防止に対するシリアスさは伝わった」と徒労感を滲ませた。
■埋まらぬ水際対策の穴 日米地位協定
アメリカ軍が民間機で来日する場合は日本側の検疫を通過することになるが、直接、軍の飛行機や船で到着する場合はまったく、日本の水際措置は及ばない。日米地位協定に基づいて、日本の法令が適用されずに入国できるという特殊事情が水際対策の穴になったとの指摘が相次ぐ。野党や基地を抱える自治体の首長などからは「日米地位協定を改定し、全てのアメリカ軍関係者が日本の検疫を受けるようにすべきだ」との声が上がる。
一方の政府は、日米地位協定の改定には極めて消極的だ。林外務大臣は「米国からの協力を得ながらやりとりを行って対応してきており、地位協定を改定するということは考えていない」と強調する
アメリカ軍が部隊運用の重要機密である、人員の移動の詳細を明らかにすることを望んでいないことに加えて、改定作業には長期間を要することになるため、即時性が必要なコロナ対策では、実際の運用面の改善で対応するのが現実的というのが政府の見方だ。
■林外相の二度の外出制限要請 米側は即答せず
2022年1月7日、日米の外務・防衛閣僚会合の場で、岸田総理の指示を受けた林外務大臣は、前日の電話会談に続けて、再度、外出制限の導入を含めた感染症拡大防止措置の強化と徹底を強く求めた。ブリンケン国務長官は「日本側の要望は明確に理解をした。国防省や統合参謀本部とともに、日本における懸念を解消するため、努力をしたい」と述べたが、具体的な対応策は示されなかった。
政府関係者は「我々が求めたのは『理解』ではない、外出制限などの具体的な『行動』だ。すぐに行動に移すという結果を出させなければ、感染拡大は続くことはよくわかっている」と危機感を強める。
今回の新型コロナの感染拡大は、国民の日米同盟への不信感を高める結果となった。日米同盟を深化、強化させることを掲げる岸田政権にとって、この事態をいかに乗り越えるか、外交力の真価が問われている。
TBSテレビ報道局政治部 官邸担当
守川 雄一郎