■脆くも崩れ去る、アメリカ側の虚構
「米軍の施設・区域において、日本に入国する場合には、米側の検疫手続きによることとなっているが、在日米軍からは水際対策を含む日本政府の方針に整合的な措置をとるという説明を受けている」2021年12月16日、参議院予算委員会。米軍施設に国外から直接到着する際の検疫体制について質問を受けた、外務省の市川北米局長はこう胸を張った。
しかし、“日本の水際対策に整合的な措置”・・・アメリカ側の虚構が崩れ去るのに時間はかからなかった。
答弁の5日後、クラスターの拡大が続くキャンプ・ハンセン所属の兵士が酒気帯び運転で現行犯逮捕されたのだ。沖縄県が、日米両政府に“基地外への外出禁止”を要請する考えを示していたなかでの、逮捕だった。
これを受けて、市川北米局長をはじめ、外務省幹部が相次いでアメリカ軍幹部に抗議と感染拡大防止の徹底を申し入れた。
「キャンプ・ハンセンでは出国時のPCR検査などが実施されず、待機措置中の行動制限も守られていなかった」・・・衝撃的な事実が発覚したのは、この一連の日米間のやりとりの中でのことだった。
松野官房長官は、2021年12月23日の記者会見で日本側の対応を明かしている。
「日本の措置とは整合的とは言えないことが明らかになったため、岸田総理の指示に基づき、林外務大臣からラップ在日米軍司令官への申し入れを行い、遺憾の意を米側に伝達した」
参事官や局長が行ってきた抗議が一気に外務大臣の担当に格上げされたのだ。危機感を強めた岸田総理の意向だった。
■「なめてるよ、本当に。あれは許せないね」
日本政府の調査が続くなか、この検疫措置の一方的な緩和は大半の基地で行われていることがわかり、最終的にはすべての基地が対象であったことが判明した。アメリカ出国時のPCR検査が2021年9月以降、実施されてこなかった理由について、アメリカ軍はワクチン接種の実施や世界的に感染が抑制されていたことを挙げている。しかし、ある官邸関係者は「なめてるよ、本当に。あれは許せないね」と吐き捨てた。
また、官邸幹部の一人は日本側の認識の甘さを鋭く指摘する。
「外務省はなぜ、アメリカ側の運用について確認をしてこなかったのか。変更はないか、現状どうなっているか。アメリカ側の非だけではなく、日本自身のことも考えないと」
一方、岸田総理は日本側の改善要求に対応するようアメリカ側に求めた上で、「引き続き、米側の対応、しっかり注視していきたい」と力を込めた。コロナ禍で繰り返されてきた、アメリカ軍の検疫と感染防止のずさんな運用。岸田総理の怒りが、本当に改善につながるのか、日米両国の今後の取り組みに注目して、追いかけていきたい。
TBSテレビ報道局政治部 官邸担当
守川雄一郎