■共同声明になかった「ロシア」の文字・・「モディ首相に配慮」の指摘も

首脳会談を終え、共同記者発表でインドのモディ首相の口から、ロシアについてどんな言葉が出てくるか、記者の注目はそこしかなかった(おそらく)。しかしモディ首相の口から出てきた言葉は「いま地政学上、新たな課題がつきつけられている」「今回の事態は両国のみならず平和と反映と安定をインド太平洋で促進する糧となるでしょう」といったロシアやウクライナを名指ししない抽象的な言葉だった。対照的だったのはその後に喋った岸田総理。「かなり時間をかけて突っ込んだやりとりをした」と明かし、こう継いだ。

「力による一方的な現状変更はいかなる地域においても許してはならないこと。紛争の平和的解決を求める必要があることを確認した」

さらに「インドと連携し、戦闘の即時停止と対話による事態の打開に向けた働きかけや、ウクライナや周辺国に人道支援を行っていくことを進めていきたい」と述べた。こうした内容は「クワッド」首脳会談でも盛り込まれなかったもので、岸田総理も「一歩踏み込んだ内容だった」と語った。ただ共同声明には「ロシア」という言葉はなく、名指しを避けた形になった。これについて同行筋はいう。

「モディ首相のメンツも保たないといけないから岸田総理から強く制裁求めると言ったことはできない。ただ中国に対抗していくことはインドも乗れるから、せめてFOIP(自由で開かれたアジア太平洋)に関してはしっかり連携してやっていく」

事実、対中国については「力による現状変更の試みに強く反対すること」で一致した。インドにとって切っても切れないロシアについてここまでの一致点を見いだせたこと、中国の覇権主義に対抗していくことを確認した意義は大きい。

■“最も中国寄りの”カンボジア この10年で変わったか?

翌20日、政府専用機は次の訪問地カンボジア・プノンペンに向かった。2022年、ASEAN=東南アジア諸国連合の議長国であるカンボジアは親日国である以上に、元来、ASEANの中で“もっとも中国寄り”の国だとされる。今回私は10年ぶりにプノンペンに降り立った。相変わらず「漢字」を多く目にし、町並みに“日本臭”はしない。外形上、かわったことは街がきれいになり、そしてスターバックスコーヒーが至る所に出店していた。

10年前の2012年、カンボジアが「前回」の議長国だったときにASEANの関連会合を取材したが、外相会合では南シナ海の問題をめぐって加盟国の間で紛糾し、ASEAN史上初めて共同声明の発表を断念したということがあった。フィリピンなどが共同声明に、紛争の明記を求めたが、議長国であるカンボジアが中国に配慮し拒否した。ASEANは中国と領有権争いをしているフィリピン、ベトナムと、その他の国との間で常にこの南シナ海問題では足並みが揃わない。背景には、カンボジアにとって中国は最大の投資国だからだ。外務省によると、カンボジアへのここ25年の累積投資の約43%が中国であり、日本の8倍以上。中国に大きく離れて、その次の投資国は韓国で11%。日本はカンボジアへの投資に随分と遅れた。あれから10年を経て、再び議長国となったカンボジアは、“中国寄り”の姿勢から変わったのだろうか。