■リポートは誰のためか?「これからも民衆の声を多く伝えていきたい」
ーーこれからどうしていきたいですか?ボーン・上田賞をとった人だと、きっとずっと注目されますね。
えらいことになっちゃって。でも、自分の中でやることは変わっていなくて。ひたすら現場に立ち続ける、民衆の声を伝える、ということだと思います。
一方で、実は、現場至上主義って危ないっていう思いもあります。現場から伝えることは大切なんですが、現場で起きていることも一つの側面でしかないよなとも思うんです。それを補足できるのが、一つは勉強。リポートの中に、その勉強してきたことを盛り込む。現場のことだけでなく、背景を加える。今後、それをブラッシュアップすることで、問題の全体像をより多角的に伝えられるようになりたいと思っています。

ーー確かに、民衆の声を伝える、ということは、一方で、もしかすると一面でしかないその声に報道が影響されることでもありますよね。
そうなんです。ですから、私の現場の取材に対して、外から専門家が評価するのが、一番の伝え方だと思っています。現場の中で伝えられることと、外から伝えられることは違います。現場にいないからいえることもあるんです。
例えば、最近はウクライナに取材に行きました。目の前で軍事侵攻による惨状を見たときに、外から見ている人と同じようにフラットな評価をできるかというと、自分はできないと思います。「公平公正」を目指さないといけないメディアが、自分でそれを言ったら終わりだろう、記者として甘い、といわれてしまうかもしれません。でも、現場で感情を入れないっていうのは無理だとも感じていて。だからこそ、現場の声と、外からの専門家の意見で、報道をフラットにしていくことを大切にしていきたいです。

ーーそんな報道の先に、須賀川さんが目指しているものってなんでしょうか?
最終的に誰のためにリポートをしているのかというと、もちろん賞のためではありませんし、実は視聴者の皆さんのためだけでもなくて、伝えることで、現地の人になにかしらの形で還元できないかという気持ちが大きいです。報道を通して、何かの支援や、政治的な決断など、結果的に現地の人たちにつながってほしいんです。少なくとも、自分はそういうことがしたいという思いが強くて、究極的には自己満足なのかもしれませんが、それでもいい、現地の人たちの喜ぶ姿が、自分が報道の先に目指している光景だと思います。
▼須賀川拓(すかがわ・ひろし)

1983年、東京都生まれ。2006年TBS入社。スポーツ局を経て2010年より報道局に配属され、社会部警視庁担当。報道番組Nスタなどを経て、2019年から中東支局長。2021年度「ボーン・上田国際記者賞」受賞。映画『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』を監督し、2022年TBSドキュメンタリー映画祭で上映される。