大人になった女性は、気持ちが晴れない「違和感」を抱え続けていましたが、その原因は分からないまま…。「父親とも普通に接していた」といいます。

ただ、2018年ごろになって気持ちのコントロールができないことが出てきたため、NPOに相談。そこではじめて、「幼い頃の性的虐待が原因のPTSDを発症している」と分かったのです。

物心つく前の、あまりに幼ない頃から続いた出来事。「誰にも言っちゃダメ」と言う父親…。「自分でも分からないうちに気持ちがねじ伏せられていた」と女性は話します。

女性は、父親からの性的虐待が原因でPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったとして、2年前、父親におよそ3700万円の損害賠償を求める裁判を起こしました。


裁判で、父親は、時期や回数などに争いはあったものの、性的虐待自体は認めました。


しかし…、広島地裁は、女性の訴えを退ける判決を下したのです。その理由は、判決文にこう書かれています。


「損害賠償請求権は、遅くとも平成30年(2018年)ころに消滅している」


女性が性的虐待を受けた当時の民法は、「被害が生じてから20年経つと損害賠償を請求する権利が消滅する」と定めていたのです。


女性の弁護人 寺西環江 弁護士
「原告のようになんとか立ち上がって自分の苦しみの理由を追求しようと闘った方に対して『法律の壁』があり、訴えが認められない。社会的に性被害の実態がきちんと理解されていないということなのかなと」


父親の行為を誰かに相談したら家族に迷惑をかける…。そう思っていたという女性は、長年、誰にも相談ができなかったといいます。


原告 広島市の女性(40代)
「『被害に遭いました』って言える世の中じゃないですよね。わたしも今、ここにいても、これが記事になって、テレビになったら、知られたくない人に知られてしまって、それも不安だなって思いながら過ごすと思う」


女性は、大人になってから好きな男性ができても、性的な関係になると不快感やめまいに襲われたといいます。


そうした「違和感」が、フラッシュバックなど明らかな症状へと悪化し、性的虐待によるものだと医師に診断されたのは、去年のことでした。


河野美代子 医師
「子どもの被害は忘れようと思っても忘れられるものじゃないから、ずっとずっと残り続けますよ。魂そのものが侵されていくってことだから」