奈緒さん「自分の人生の中でもすごく大きな時間」舞台で伝えたいこととは?
小川彩佳キャスター:
94歳の桂子さんのしなやかな佇まいに感銘を受けましたけれども、実際に会われて、どんな方でしたか。
奈緒さん:
最初お会いするときは少し緊張もあったんですけど、本当に愛に溢れた方でした。お会いした時間、桂子さんの愛をたくさん受けたなという自信を持って、日本に帰ってくることができました。

ライマ市で、たくさんの桂子さんのお知り合いともご挨拶をさせていただいたんですけど、皆さん、桂子さんのことを自慢や誇りだとおっしゃっていて、改めて、ご自身で「自分の居場所」を築き上げた方なんだなと思いました。とても温かい時間でした。
藤森祥平キャスター:
初めてお会いになったとは思えないような、(VTRからでも)包み込むような感じを受けました。
奈緒さん:
このときが本当に初めての時だったので、嬉しかったです。
藤森キャスター:
そんな桂子さんと同じように、戦争花嫁と呼ばれた方々は、日本でもアメリカでも、常々、差別や偏見に苦しんできたそうです。
フランクさんとの間に生まれた長男のエリックさんも、黒い髪の毛をフランクさんの親戚が見て、「フランクの血を継いでいないようだね」と。こういうことが言葉で出てくるような感じだったんですよね。実際に桂子さんが、戦後も世間と戦い続けた状況をどのように感じましたか。

奈緒さん:
戦争花嫁と呼ばれた方たち1人1人にも、それぞれの人生があるので、全てを計り知ることはできないんですけど、桂子さんとお会いして、お話を聞いていると、たくさんつらい思いをされていた中で、今の自分がすごく幸せだとおっしゃっていました。「日本という国は今、戦争がない。それがもう幸せ」とおっしゃっていたのが、すごく印象的でした。
そして、ご一緒しているときに、桂子さんの口から「ありがとうございます」との言葉を、何度も聞かせていただいたんです。全てのことに感謝をしていらっしゃって、ご自身のことも愛していらっしゃる姿が、本当に素敵な女性だなと思いました。

小川キャスター:
お話を聞かれているとき、奈緒さんは涙を流されていましたね。
奈緒さん:
桂子さんもお話をしていて、涙を流されているときがたくさんあったんですけど、ここまで心が動く数日をご一緒できて、自分の人生の中でもすごく大きな時間だったなと思っています。
小川キャスター:
舞台で桂子さんを演じるわけですけれども、そうした中で、どういったことに向き合っていかれたいと思いますか。
奈緒さん:
私自身が、今回の役のお話をいただいたときに、戦後80年で“戦争”というものに向き合う機会をいただいて、私事なんですけど、祖父の思いを聞けなかったのが、すごく自分の中でも心残りでした。
桂子さんとお会いして、たくさん当時のお話を聞いて、祖父にも絶対に伝えたい思いがあったと思うんです。想像することしかできないけど、想像することを諦めずに、桂子さんからいただいた言葉を、私は伝えていきたいなと改めて思いました。

小川キャスター:
「語り継いでいく」ところで言いますと、桂子さんの母校を訪ねて、生徒の皆さんとも交流がおありだったと思います。その中でお感じになったことだったり、語り継いでいくことの意味を、どのように感じていらっしゃいますか。
奈緒さん:
本当に私自身が学んだなと思う時間でした。雙葉学園の皆様とお話しているときに、実はたくさんの質問をいただいたんですけど、その質問の1つに、「当時のことを実際に知っていらっしゃる方にお話を聞ける機会が減っていく中で、私達はどうやって向き合っていけばいいと思いますか」と、とても深い質問をいただきました。

そのときに、改めて「止めないこと」かなと私も気づかされまして。ずっと考え続けていくこと、伝え続けていくことが大事だと思いますし、私達が今こうやって届いているもの、受け取っているものは、誰かの「残したいという思い」があって届いてるものだと思うんです。
なので、しっかりとその思いまで受け取らなければいけないし、今度は、自分が伝える側になったときに、どういう思いを受け取ってほしいか、何を残したいかを、一つ一つしっかりと自分の中で選択して残していくことが大切なのかなと気づかされました。
私たちは、戦後80年の間に生まれた人間なので、その共通点を持って、一緒に向き合えば怖いことはないと。改めて、すごく心強い、お守りのような教えをいただいた時間でした。
藤森キャスター:
日本とアメリカ、それぞれで差別を受けながら、前を向いて生き続けて…。その時間を私達もこうやって知ること、共有することの大切さを改めて感じますよね。
斎藤幸平さん:
そうですね。差別や偏見と闘ってきた方々がいるから、今の社会の多様性、平等、平和があると思います。

他方で、戦後80年経って、戦争の記憶が急速に薄れています。それは参政党の憲法案なんかを見ていても、最近は非常に感じます。
今、私はドイツにいますが、記憶の継承という意味では、ドイツは戦後かなり頑張ってきたけれども、逆にそれがガザのジェノサイドについては何もできない状態を生んでしまっている。
本当にこのままいくと第3次世界大戦みたいな状況に、今、人類が再び直面している中で、どうやって私達が歴史から学べるのかを、戦後80年を機に、私も舞台を見て改めて考えたいと思います。

小川キャスター:
その舞台はいよいよ来月上演です。皆さんに改めてどんな思いを伝えていきたいですか。
奈緒さん:
戦後80年に、戦争が過去にあったということを、自分たちの過去として受け止めて、向き合う機会になったらいいなと思います。

私自身、自分の無知を痛感して、すごく怖くなったときがあるんです。だからこそ、来てくださるお客様たちには、そんな自分の無知が怖いという思いではなく、この無知は自分たちの余白なんだ。その余白を愛と平和に繋がる言葉で一緒に埋めていこうと。そういうふうに思える舞台にしたいと思っています。
今残したいものを、みんなで稽古場で一生懸命選んでいます。
小川キャスター:
その思いごと、舞台をご覧の皆さんに伝わっていくことを、心から願っております。
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〈プロフィール〉
奈緒さん
俳優 今年1月アメリカで取材
舞台で“戦争花嫁”の桂子・ハーンを演じる
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済・社会思想
ドイツ在住 著書『人新世の「資本論」』