火山ガラスを粉砕した微粉末が結合材に

研究を継続するために奔走した袖山さんは、水を使って物質を選別する企業や、天然鉱物の分離技術を持つ大学などに相談したものの、シラスの成分を効率よく分離することはできなかった。

そんなときに、コーヒー豆から小石を取り除く装置を製造販売している埼玉県の原田産業と出会う。シラスの成分を比重によって分ける方法で試験をしてもらったところ、砂の成分だけでなく、軽石と火山ガラスを分離することにも成功した。

そこで、シラスから取り出した火山ガラスを、結合材に使えるのではないかと考えた袖山さんは、平成27(2015)年に東京大学の野口貴文教授に相談する。野口教授からは「細かく粉砕すれば可能性がある」と言われた上で、結合材として機能する混和材として、鉱工業品の国家規格である日本産業規格JISの性能がでるかを検証する必要があると助言された。

この相談を機に、同年に工業技術センターと東京大学、プリンシプルとの三者で共同研究を開始。平成29(2017)年には経済産業省の新市場創造型標準化制度に採択され、センター内に比重選別装置と粉砕装置を導入した。

シラスの比重選別装置

装置ではシラスを投入してノコギリ刃状の網板を回転振動させるとともに、風で粉塵を舞い上げることによって、砂の代替になる結晶質、軽石質、火山ガラス質、それに粘土質に分離する。

シラスから分離された物質

さらに、火山ガラス質と軽石は、粉砕して火山ガラス微粉末=VGPを製造する。VGPは粉末度の違いで3種類に分類され、混和材としてセメント相当の強度を発現するものだけでなく、コンクリートの耐海水性や耐久性を高める混和材として使われているシリカフュームやフライアッシュの代替になることも判明した。シリカフュームはセメントの約5倍の価格で100%輸入されている。VGPによって、国産化が可能になったのだ。

粉砕装置 ローラミル

この結果を論文として発表し、特許を4件取得。2020年3月に「コンクリート用混和材としての新市場を世界に先駆けて創造」するため、VGP のJISが制定された。さらに、2024年3月には、生コンクリートに関するJIS改正によって、VGPは生コンクリートの混和材として規定された。

VGPのJIS(左)とレディーミクストコンクリートの改正JIS

VGPが工業材料として認められたことの意義を、袖山さんは次のように語った。

「シラスを工業材料にすることは鹿児島県にとっては念願でした。国立の研究機関で研究が行われてから119年、県がシラスを利用する研究を始めてから74年が経っています。先輩方から代々受け継がれて挑戦してきた課題を、これでようやく解決できるかもしれません」