セメントに比べて製造過程の二酸化炭素排出量は10分の1に

火山ガラス微粉末のVGPには、結合材になる以外にも大きなメリットがあった。それは、製造にあたって二酸化炭素の排出量を、セメントの約10分の1に抑えられることだ。

セメントの原料となる石灰石は、二酸化炭素を含む化合物の炭酸カルシウムが主成分。セメントを作る際には化石燃料を使って、石灰石を1450度の高温で焼くことから、セメント1トンあたり773キロもの二酸化炭素が排出される。セメント製造の二酸化炭素排出量は、日本全体の排出量の4%を占めるほど多い。

これに対して火山ガラスや軽石は二酸化炭素を含まず、セメントのように石灰石を焼く必要もない。シラスは環境にやさしい工業材料へと変化を遂げた。

鹿児島市内の県道工事現場

現在、VGPが初めて使われた公共工事が、鹿児島市内で進められている。それは、県道に設置された、車道と歩道の境をつくるためのコンクリートブロック。セメントの55%をVGPに置き換えている。セメント100%を用いた従来品に比べて二酸化炭素排出量が約50%削減された。

VGPを使ったブロックと袖山研一主任研究員

工業技術センターでは、今年度は生コンクリートのモデル工事で試験的にVGPを使用するほか、企業に対してVGPの量産化に向けた技術支援などを行う。シラスからVGPを量産できれば、取り出した副産物の砂もJIS砂として利用でき、新たな産業が創出する。袖山さんはVGPの本格的な実用化を期待している。

「VGPはこれから社会実装を目指します。その過程で、役に立たないと言われたシラスが、国内はもちろん、世界に必要とされる工業素材になるのではないでしょうか」

何よりもシラスは大量にある。シラスは「厄介者」から「夢の素材」へと変わろうとしている。
(「調査情報デジタル」編集部)

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。