閉ざされた家庭の中で起こる問題
すでに述べたように、8050問題は単に若年のひきこもりが高年齢化した事例ばかりではない。人生後半に訪れる離職や離婚などの「曲がり角」ゆえに、思わぬ形で親に頼る、または介護などで親に頼られることが、8050世帯の入口となる。
高齢の親を助けるため実家に帰ったつもりが、慣れない介護にストレスをためて虐待に陥ってしまう、子ども側にお金がなく親を経済的に搾取してしまうなど、閉ざされた家庭のなかでは様々な課題が積み重なる。親もまた子どもを支えることを当然と考え、自分が困っていること自体に気づかない。
8050問題に陥った人にとって、その状況は家に閉じこもる「ひきこもり」のイメージに重なりにくい。国のひきこもりに関する調査でも、就労経験がある人がおよそ8割、また家族以外の人と会話がある人が4割以上いる。またコンビニや趣味の用事に外出できる人が8割以上にのぼる(内閣府政策統括官(政策調整担当)「こども・若者の意識と生活に関する調査」、2023年)。
「外出しないひきこもりの人」という形ではなく、親子の孤立を幅広くとらえる視点が必要だ。実際に、自宅に閉じこもっている人よりも行動範囲が広い人の場合、高齢者虐待などの問題が深刻化している可能性がある。
隙間のない支援の試金石
国は、各自治体が支援対象者のSOSを待ってから支援するのではなく、積極的に困りごとをキャッチする重層的支援体制整備事業を推進している。
「相談があってから」「困窮に陥ってから」「暴力が始まってから」ではなく、さまざまな視点から隙間なく糸口を探すような体制が望まれる。8050問題は、まさに新しい支援の試金石といえる。
社会的孤立の対応にあたって、無業と孤立という2つの視点を用意し対策を講じることが望まれる。15₋39歳の無業者は2%前後、40代・50代の無業者は3%前後の状態が続いている(「労働力調査」より)。
学校から職業への移行期、中年期以降の人生の曲がり角、退職後などは仕事などの社会参加の機会が途切れやすい。欧州各国で実施されている早期離学者への補償教育など、日本に欠けた視点を補う余地が大きい。
また仕事に就いていても同僚や友人との会話が乏しい人は少なくない。家族と友人との交流頻度が週1回程度以下の人は8.8%にのぼる(「人々のつながりに関する基礎調査」令和4年)。SNSを通じた見守り活動など、極端な孤立に陥る前の取り組みが求められている。
8050問題は、人口高齢化と未婚化という不可避の課題を映し出す鏡である。親子関係の最終末期を直視することで、孤立に至る筋道をたどり直し、対策に結びつけることができるはずだ。
<執筆者略歴>
川北 稔(かわきた・みのる)
1974年、神奈川生まれ。名古屋大学大学院博士後期課程単位取得修了。社会学の立場から児童生徒の不登校、若者・中高年のひきこもりなど、社会的孤立の課題について調査・研究を行う。
著書に「8050問題の深層 『限界家族』をどう救うか」(NHK出版)「社会的孤立の支援と制度 ひきこもりの20年から多元的包摂へ」(青弓社)など。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。