迅速な初期対応の重要性、正しい情報に基づき行動することの大切さ

(以下、全文)
令和7年度水俣病犧牲者慰霊式 熊本県知事「祈りの言葉」
水俣病犠牲者慰霊式に当たり、水俣病の犠牲となられた全ての御霊に対し、熊本県民と共に、謹んで哀悼の意を表します。
水俣病は、生命の源であるこの海を汚染し、多くの命と健康を損なったばかりか、それまで共に生きてきた地域住民の皆様の間に分断を生んでしまいました。水俣病が確認された当初に、環境や健康を最優先に考え、適切かつ迅速な対応ができなかったことは痛恨の極みです。
水俣病でかけがえのない御家族を亡くされた方々や被害に遭われた方々は、今もなお、癒えることのない苦しみや悲しみを抱えながら、日々を過ごしていらっしゃいます。
改めて、水俣病の被害拡大を防ぐことができなかった熊本県の責任を重く受け止め、熊本県知事として、ここに心からお詫び申し上げます。

私たちは、迅速な初期対応の重要性、正しい情報に基づき行動することの大切さなど、多くの貴重な教訓を水俣病から学びました。
私は、昨年の知事就任以来、これらの教訓を常に心に留めながら県内各地の現場に赴き、患者や被害者の皆様をはじめ様々な立場にある方々の声に真摯に耳を傾け、県民の皆様に安心して暮らしていただけるような県政運営を行って参りました。
今後も、私を含めた熊本県職員全員が、これらの教訓を胸に刻み、県政の最重要課題である水俣病問題に対し、県庁一丸となって全力で取り組んで参ります。
そして、水俣病から学んだ貴重な教訓を、国内外に、そして世代を超えて発信していくことも、熊本県に課された使命です。
私は、先月、水俣病関係団体の皆様と共に、水俣病原点の地とされる「百間排水口樋門扉」の修復セレモニーを開催しました。現地で、復元された樋門の扉を前に、当時の光景に思いをめぐらせると、改めて、水俣病の教訓を後世に伝えることが、知事として自らに課された使命であると強く感じました。
熊本県では、県内すべての小学5年生が水俣市を訪れ、水俣病や環境問題について学ぶ「水俣に学ぶ肥後っ子教室」をはじめ、胎児性・小児性患者の方々や水俣病の語り部の方々が小中高校などを訪れ、御自身の経験や願いを伝えていただく取組みも実施しています。
加えて、昨年は、南アフリカで開催された「国際水銀会議」にも、水俣病の語り部の方にオンラインで御参加いただき、水俣病の悲劇が二度と繰り返されることがないよう世界に発信しました。
来年は、水俣病の公式確認から70年となります。これを契機として、関係者の皆様の御協力をいただきながら、更なる水俣病の正しい理解の促進、水俣病の歴史と教 訓の継承を進めて参ります。
胎児性・小児性患者の方々は、お生まれになった時から、水俣病による痛みや苦しみを抱えながらも、御家族や支援者の皆様と共に、これまでの人生を生きてこられました。
熊本県では、高齢化が進み、御心配の思いをかかえながら日々暮らしておられる患者の皆様方や御家族の方々の声を丁寧にお聞きしながら、福祉サービスやケアホームの整備などを行い、住み慣れた地域で安心して過ごしていただけるよう取組みを進めて参りました。
今後も、御本人や御家族の思いをしっかりと受け止め、国や関係市町、地元関係者の方々と共に、安心して在宅での生活を継続していただけるよう、きめ細やかな支援を進めて参ります。
公健法に基づく認定審査については、申請者それぞれの事情に丁寧に対応しなが ら、着実に進めて参ります。
併せて、地域の再生と振興については、現在、第八次水俣・芦北地域振興計画の策定を進めており、国や関係市町、地元関係者の皆様と連携し、より一層の地域の活力と魅力の向上に取り組んで参ります。
私は、本日、知事就任後2度目となる慰霊式を迎え、改めて身の引き締まる思いで、慰霊碑の前に立ち、祈りを捧げました。
熊本県知事として、かけがえのない県民の命と健康を守る責任の重さを強く心に刻むとともに、水俣病問題の解決に向けて全力で取り組むことを、ここにお誓い申し上げます。
結びに、熊本県民と共に、改めて水俣病犠牲者の方々の御冥福を心からお祈り申し上げ、私の「祈りの言葉」といたします。
令和7年5月1日 熊本県知事 木村敬