2024年1月の能登半島地震で、津波にのまれながら、住民全員が助かった集落が石川県珠洲市にあります。住民を救ったのは、東日本大震災をきっかけに繰り返してきた避難訓練と、1つの合言葉でした。

「見たことがない」海底があらわに 津波を確信

能登半島の先端に位置する石川県珠洲市三崎町寺家の下出地区。海沿いに立つ35軒の住宅に、およそ80人が暮らしています。

能登半島の最先端・禄剛崎から南東におよそ4キロにある下出地区=2025年3月9日

そのうちの1人、出村正幸さん(48)。自宅2階にいたところ、震度6強の揺れに襲われました。

地震直後の出村さんの自宅 本棚が倒れ部屋中に本が散乱した=2024年1月1日午後4時22分、出村正幸さん撮影

崩れた本をかき分けるので逃げ遅れた出村さん。外に出ると、自宅前の海が一変していました。

出村正幸さん
「ありえないくらい。赤い灯台ぐらいまで、すこんと波が引いた。今まで何十年間生きてきて、まったく見たことがない、考えられないような光景」

見たことがない海底まで見えたと話す出村さん

能登半島地震の前から、3年にわたって活発な地震活動が続いていた珠洲市。しかし出村さんは、海底があらわになった海を見て、今度の地震では津波が来るのを確信したといいます。

出村正幸さん
「東日本大震災の報道で、大津波が来る前に波が引くというのは聞いていた。これはただ事じゃないなと。これは津波が来るぞと、さすがに来るぞと思った」

外に止めてあった車でとっさに逃げようとしましたが、ドアが開きませんでした。車の鍵を自宅に取りに戻った瞬間、波が玄関にまで押し寄せました。乗ろうとした車は、すでに10メートルほど流されていました。

玄関から撮影した津波 車はすでに波に飲まれ数メートル流されていた=2024年1月1日午後4時36分、出村正幸さん撮影