基礎控除の概念を逸脱
こうして「財源規模」「階層格差」「インフレ」に目配りしてできた新たな減税案ですが、税制と言う点では、むしろ大きな課題を残しました。
1つは、基礎控除の根本がわからなくなってしまったことです。基礎控除とは、国民が最低限生きていくための所得には税金をかけないという考え方から、基本的にはすべての人に適用されるべきものです。現在は、課税所得2500万超の富裕層以外にはすべて48万円の基礎控除が認められています。年収200万、475万、665万、850万と、新たに4つものもの階層ができるというのは、そもそも基礎控除の概念を逸脱した制度です。「簡素」であるべきという税制の原則にも反します。
また、長年のインフレ調整のための減税であるはずが2年の時限であるという点も理解に苦しみます。さらに物価上昇が進んだ2年後になぜ増税されなければならないのか。現下の物価高対策ということであれば、昨年実施された定額減税や給付金などより適切な手段があるように思います。
本格的な税制改革の議論を
現在の課税最低限が決まった1995年比を持ち出すまでもなく、インフレが当たり前の時代になりつつある中で、物価上昇に合わせて所得税の税率や刻みを調整する税制改革は避けて通れません。累進課税制度の下では、物価上昇で名目所得が上がれば、税率が上がり、その分、実質増税になってしまうからです。消費税もすでに10%になり、逆進性への対応も求められています。今回の減税案を、今後の本格的な税制改革の議論にどう結び付けていくかが、問われています。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)