不起訴、無罪となった心神喪失者の処遇は
清加さんの命を奪った加害者は、不起訴となってその後どうなったのか。
清加さんの事件のように、心神喪失者が殺人や放火、強盗など「重大な他害行為」をおこなって、不起訴処分か無罪が確定した場合について定めた法律がある。「心神喪失者等医療観察法」だ。
この法律では、検察官が地方裁判所に、心神喪失者の適切な処遇の決定を求める申立てを行う。
裁判所では、心神喪失者を入院させ詳しい鑑定などを行う。その上で裁判官と「精神保健審判員」と呼ばれる医師の各1人の合議による審判が開かれ、心神喪失者の処遇を決定する。
この審判で「国の指定を受けた医療機関への入院」や、「通院」などの決定がなされる。
不起訴になった加害者の男は、医療審判を受けた。審判の結果、指定医療機関への入院が決まった。
「自分以外はみんな悪い宇宙人」…垣間見えた加害者の人生
新原さんは夫と審判を傍聴した。
「娘の事件を起こした加害者は、複雑な家庭環境で育っていました。高校を中退して引きこもりになり、ある日家を飛び出し、路上生活者になって、支援団体の施設で暮らしていたそうです。
詳しい生い立ちまでは分かりませんが、いろんな環境や事情があって、心が病んでいく条件があったんだろうと思います。加害者は、強い妄想など重い精神障害があり、症状を抑える薬を飲んでいたようなのですが、薬を飲んでいれば、おとなしい人だったのでしょう。」
「施設を出て一人暮らしをしたいと強く望んで、事件の2か月ばかり前に支援施設を出て、娘のマンションの下の階に住み始めました。でも一人暮らしになり薬を飲まなくなり、そうやってまた妄想の世界に入ってしまう結果となり事件が起きてしまったそうです。
自分以外はみんな宇宙人だと思い込み、とにかく悪い宇宙人をやっつけるんだと行動に出た。何も分からず犯してしまった加害者に対して、私たち家族はどうすることもできず、まともに感情をぶつけることもできず、それ以上恨みようがありませんでした。」
「加害者に恨みはない」その言葉に込めた強い気持ちとは
「加害者の家族や、世話していた施設の方に対しては、どうしてちゃんと見ていてくれなかったのか、薬の管理をきちんとできる状態のところで生活させてくれなかったのか、とても悔しい思いはあります。」
新原さんは、加害者の周囲に対し“悔しい思いがある”と述べる一方、心の病がある人や家族を気遣う。