名古屋ウィメンズマラソンで代表争いに加わる?

全日本実業団ハーフマラソンが、川村の競技人生のターニングポイントにもなった。23年は1月29日の大阪ハーフマラソン(1時間11分35秒)、12日の今大会(1時間11分03秒)と2週間のインターバルで走り、その後に廣瀬永和監督と話し合って1年後のマラソン出場を決めた。
「ハーフの記録が私と同じくらいの選手でも、マラソンを走っている選手が多くいます。自分がどのくらいマラソンを走れるのか、知りたいと思って出場を決めました」

練習では長い距離をやろうとしても、上手く走れないことが多い。実際24年大阪マラソンに向けても、30km以上のメニューはやらずに臨んだ。それでも2時間25分44秒の5位(日本人1位)と好成績を残した。

初マラソン1年前の決断も、「ちょっとやってみようかな」という好奇心が強かった。「3年半くらい大きなケガをしていない」という身体の頑強さがあるからではあるが、その好奇心が色々なチャレンジを可能にしてきた。

今年はハーフマラソン連戦だけでなく、3月9日の名古屋ウィメンズマラソン、同30日のアジアマラソン選手権(嘉興・中国)も連戦する。名古屋は早い段階で決めていたが、アジアマラソン選手権は「私は代表で走った経験がありません。悩みましたが、せっかくの機会なので」と出場を決めた。

2週連続のハーフマラソンも3月のマラソン連戦に向けて、負荷の大きな練習にできるかもしれない。そう考えればやってみよう、と抵抗なくやれた。

廣瀬監督は2週連続出場の目的を、次のように話した。
「距離を多く走れない選手なので、ハーフを2本、間隔を置かずに出場してみて、どう走れるかを見ることが目的です。2本の走りを見て、名古屋に向けた練習をどうやっていくかを決めることにしています」

マラソンに向けて、今の力をハーフマラソン2本で見極める。それが一番の狙いなら、川村自身も結果にそこまでこだわらずに走ることができる。マラソンに向けた中・長期的なトレーニングの流れと、川村の好奇心が絶妙にマッチしたハーフマラソン2週連続出場といえるだろう。

ハーフマラソン連戦後に自身初の40km走

24年の川村は1500m、5000mにも多く出場している。大学時代も3年時まではスピード練習&1500mというセットで競技をしていた。4年時に10000mでインカレに出場するため、夏合宿で初めてスタミナ練習を行ったという。

基本的にはスピード練習を行い、長い距離の種目に出るときだけ少しスタミナ系のメニューを行う。岩谷産業に入社1年目は長い距離の練習も行ったが、上手くいかなかった。2年目から学生時代のパターンに戻したが、出場する種目はハーフマラソン、さらにはマラソンと距離が伸びたのである。

しかし2週連続ハーフマラソンを走った後には、「40km走も1回走る予定です」と川村。昨年の大阪マラソンは練習で30km以上は走らなくても、レース本番になれば42.195kmを走れることを実証した。しかし直後に「もう少し練習してみたらどうなんだろう」と、そのときも好奇心が頭をもたげた。

トレーニングだけでなく、2度目のマラソンはメンタル面も変わってくる。初マラソンは言ってみれば“おためし”だった。結果が悪ければ、その後は走らなくてもよかった。しかし2回目の今回は、東京2025世界陸上代表入りも、少しだけ意識しているようだ。
「アジアマラソン選手権は順位を狙って、名古屋はタイムを狙っています。初めは2時間23分30秒の世界陸上標準記録を切れたら、と考えていましたが、監督が『2時間22分台や』と言うので、私もそこを目指したい」

代表入りにはもう少し上のタイムが必要と思われるが、クイーンズ駅伝(3区区間4位)や全国都道府県対抗女子駅伝(9区で2年連続区間賞)の安定した強さを見ると、目標より上のタイムで走っても不思議はない。

2週連続ハーフマラソンから自身初の40km走。グレードアップした川村を象徴するのが、今回の全日本実業団ハーフマラソンになる。そこでの走りが、おためしではなく、“本気”のマラソンの結果にもつながっていく。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)