最後まで対立した主張
医師たちは男の犯行について、「幻聴の内容を踏まえて、男自身が、反社会的で暴力的な性格に基づいて殺害を決めた」という点では共通していた。「ネズミ」の存在については、1人の医師は「虚偽の供述」であると指摘、2人の医師も極めて唐突かつ、不自然であると述べた。
一方、Aさんらが自分に危害を加えようとしているという「被害妄想」への男の「確信度」の程度については意見が異なり、「幻覚妄想状態が犯行にどの程度影響したか」については意見が分かれた。
結審の日。検察側と弁護側の主張は、やはり対立した。
【検察側】
▽Aさんを殺害することにしたのは、男の反社会的(アウトロー)な性格に基づく判断・選択によるものである。犯行には、正常な精神作用により判断した部分が残っていた。(=男は心神耗弱状態である)
▽犯行様態は、Aさんに対する強い殺意に基づく残忍なもので、厳しい非難に値する。
→懲役9年を求刑。
【弁護側】
▽明らかに死んでいるのに殴りつけるのは幻覚に支配されていたためであり、犯行動機は了解不能。
▽事件時、男は幻覚、幻聴、妄想に支配されていて、Aさんを死亡させるつもりで事件に及んでいたわけではない。
→無罪が妥当であると主張。
男は最後に「Aのご冥福とご遺族へのお悔やみを申し上げます。これまでに迷惑をかけてきた皆様に申し訳ございませんでした」と述べた。