驚きのあまり、頭が真っ白になった

堀田にはさらなる大きな困難が待ち受けていた。

ロッキード社側の弁護士は、「嘱託尋問」は「違法」にあたると主張して、コーチャン副会長らは嘱託尋問、取り調べを拒否したのである。

「ロッキード社側のとびきり優秀な弁護士3人から、すさまじい抵抗を受けました」(堀田)

やはりコーチャンらは、日本の捜査当局から逮捕されることを恐れていたからだ。
「嘱託尋問」の開始、そして証言記録の入手が大きくずれ込むことになった。
コーチャンらの証言拒否を受けて、ロス地裁は堀田に難題を突きつけた。

「検事総長が保証したコーチャンらの不起訴についての刑事免責を、さらに日本の最高裁判所が保証すること。その決定がない限り、嘱託尋問の証言記録を日本側に渡さない」

堀田は「驚きのあまり、頭が真っ白になった」という。
検察トップの検事総長の約束だけでは不十分であり、さらに最高裁判所が、検察が起訴しないことを将来にわたって保証しろという要求だった。

「そもそも日本の裁判所は起訴や不起訴の権限をもっていない。そんなことを最高裁判所に頼めるだろうか…」(堀田)

時効期限が1か月後に迫っていた。
堀田からの国際電話で相談を受けた吉永は、直ちに検察幹部、法務省刑事局と協議、最高裁に合意を取り付けた。
つまりこういうことだ。検事総長がコーチャン副会長らに対する「不起訴」を確約し、さらに「最高裁判所」がその「不起訴」に法的正当性を保証、お墨付きを与えるという前代未聞の対応であった。
日本の法律にはない「超法規的措置」によって刑事免責を与えるという異例の対応が取られたのだ。

堀田はのちにこう振り返った。

「そもそも実際問題として、日本にいないロッキード社幹部をどうやって処罰できるのか、物理的にできないし、可能性は皆無だったが、証拠入手のためには刑事免責を保証することは不可欠な状況だった」

ロッキード事件を捜査中の東京地検特捜部・堀田検事(13期)