■「日本文化大好き」な中国人もいる 感じた優しさとは

ただ、生活をしていく中で、見ず知らずの日本人に対して冷たくする中国人のメンバーや、周囲の中国人はいなく、むしろ助けてくれる場面が多く、中国人の「優しさ」を感じたといいます。周囲の助けを得ながら、生活も徐々に楽しくなり、また、当初、渡航に反対した両親も2019年に娘の活躍を見に中国を訪れた際には「もう一度中国に来たい」というほど、いい印象に変わったといいます。しかし、新型コロナの感染拡大で、その約束はまだ果たされていません。
さらに、中国の人の「日本愛」を感じたことも。それは北京のジャズ・クラブ「ブルーノート」で開かれた、中国で人気の久石譲や90年代にヒットした日本の曲を演奏するジャズ・コンサートでのことでした。曲紹介をしただけで中国人の観客は大盛り上がり。手拍子をし、曲はすべて日本語で歌える…演奏しながら、満席の客席を見て、猪子さんは率直にこう感じました。
「学校で日本人は悪いと教わっているかもしれないけれど、日本の文化は好きだなと思っている人は多いし、伝わっている」

猪子さんが所属するオーケストラは今年で創立12年。演奏技術は日本のプロオーケストラでいうと真ん中くらいのレベルだということですが、メンバー自体、若い人が多く活気があり、中にはアニメだけを見て日本語を覚えた人もいるといいます。
「国同士がギスギスすることはあるけれど、楽しいものは楽しい、好きなものは好きという感覚があるのではないかとも感じました」
自分を助けてくれる中国人に、日本文化が大好きな中国人…。猪子さんは、中国の人や文化にふれあうたびに、中国のイメージはいい方向に変わっていったと話します。中国の伝統的な弦楽器「二胡(にこ)」を使った楽曲に出会い、こうした音楽を日本の人たちに紹介していきたいという思いも芽生えました。日中のために、今度は中国の文化にふれてもらうことで、日本の人が持つ中国への「印象」を変える番ではないかと考えています。
JNN北京支局 濱野祐司